●『帰り道〜あれから一年〜』
恋人たちにとって特別な日となるクリスマスも、もう終わりを迎えようとしていた。 夜も10時を回り、歓楽街はクリスマスパーティーからの帰りを歩く恋人たちがちらほらと。もちろんながら独り身の者や、複数人のグループも存在するが、やはり際立つのは寒い中でも温かそうに見える恋人たち。 その者たちを末永く祝福するように、雪がうっすらと降り出して来た。
恋人たちの中の一組である流華とヨシキは、少しぎこちなくも寄り添い、ゆっくり家路へと歩いていた。 「雪が……降ってきたな。大丈夫か?」 「大丈夫」 そう返しつつも、流華はギュッとヨシキの手を握った。 まだその行為自体は恥ずかしいものの、恋人らしい『手を握る』ということが、身体だけでなく、心まで温かくさせる。 「…………」 ヨシキは何も言わず、その手を強く握り返した。 ヨシキにしても、心中は流華と同じだった。 去年一年、あと一歩のところで止まっていた自分たちの関係。 それが、この一年で大きく進展し、赤い糸で結ばれたのだ。 あの時はまだ触れれそうで触れられなかった、この小さくか弱い手。 この手の温もりを離したくないと、この先もずっとこうやって手をつないでいたいと、ヨシキは心の中で強く思った。
流華の左手の薬指には、今日というその日が始まる前にはつけられていなかった指輪がある。 小さな箱ではなく、大きな箱に入れられたそれをヨシキから貰ったとき、最初は「今年も腕輪?」と思った流華だったが、箱の中身を見て、顔を赤らめたのは言うまでもない。 嬉しかったのだ。 恋人となり、迎えたこのクリスマスという日に、指輪という恋人らしいプレゼントを貰ったことが。 言葉では、どれだけ言っても伝えきれないほど嬉しかったのだ。 その嬉しさも合間見合って、いつもより身体がヨシキに寄っていた。 「来年も……」 「はい?」 ぼそりと呟いたヨシキに、流華は小首を傾げて見上げた。 ほんのりと頬が赤らんで見えるのは、気温が下がっている所為だろうか。 そうも見えたが、その先の言葉を紡ぐのに時間がかかってるヨシキを見ていると、そうでないことが伺える。 「来年も……できれば、この先も、ずっと二人一緒に……過ごしたい、な」 途切れ途切れだったが、はっきりとその意思を伝える。 流華はキュッと目を細めて、口端をにんまりとあげて微笑み返した。 「はい。来年もそのまた先もこうして二人で過ごせるように……」 ふと、流華が立ち止まり、ヨシキもそれにつられて足を止める。 握っていたヨシキの手を両手でしっかりと包みこみ、彼の顔を見上げた。 「メリークリスマス、です」 今の幸せを、まだ見ぬ未来まで。 誓いに似たその言葉に、ヨシキも小さく微笑んで返した。 「メリークリスマス、流華」
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