●『聖夜の超一般的過ごし方(南條流)』
聖なる夜には、マサラが似合う──。 子沢山な南條一家の中でも年長の二人は、聖夜も他の弟妹とは一線を画した過ごし方をする。 題して、ドキッ! 南條だらけのカレー大会。 会の趣旨は、一晩中カレーを食べながらこの一年であったこと(主に愚痴)を延々と語るという、聖夜にふさわしいスパイシーイベント。 主催者は氷である。 カレー作りは彼女のライフワークと言っても過言ではない。 犠牲者……いや、参加者は丞のみ。 殆ど無理やりに連れて来られた丞にとっては、パーティーと言うより苦行に近いものだ。 しかし丞は、体をのけぞらせながら両手をからめるスタイリッシュな立ち姿勢で、カレーに敬意を表した。 テーブルの上にはキーマカレー、ベジタブルカレー、ビーフカレー等々がずらりと並べられている。 「さあさあ、座って」 グリーンカレーを手に、氷は丞に笑いかけた。 「超激辛レッドカレーもあるからねー♪」 「一体、何皿出てくるんだ……」 小さく呟きながら、椅子に手を伸ばす丞。 「あら嫌なの? まさかね? ジョジョちゃんったらツンデレなんだから」 いつの間にか、丞の後ろを取った氷は素早くネックブリーカーを仕掛ける。 スローモーションで宙を舞う丞の身体。次の瞬間、訪れる大ダメージ。 「うああああああ──ッ!!」 プロレス技をかけるのが、愛情表現だと信じきっている氷。 床に背中を強打し、のた打ち回っている丞にとっては重すぎる愛であった。 「何やっているの? カレーが冷めちゃうじゃない」 氷はエプロンを取り、椅子に座って丞を手招きする。 背中をさすりながら席に着く丞。氷は、そんな丞を慈母のような目で見ながらカレーを勧める。 丞はスプーンですくい、恐る恐る一口頬張った。 「!?」 「それは、さっき言ったレッドカレーよ。かなり辛いでしょう!」 体中の血液が沸騰しそうな勢いに、気が遠くなる丞。 意識が薄れるのを感じながら、最後の言葉を搾り出した。 「……やれやれだぜ」
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