●『最後だから、ここで』
夕焼け時というのは、何故こんなにも美しく、心を切なくさせるのだろうか? ――あぁ、それはきっと、もうすぐ今日が終わってしまうからだ……。
今年のクリスマスは、学校で過ごしたい。 それは涅雅とつかさの心の中に、どちらともなく生まれた想いだった。 来春に卒業を控える涅雅にとって、つかさと学生同士で過ごせる最後のクリスマス。だからこその想いだった。 「クリスマスツリーを見下ろすというのは、不思議な気分だね」 校舎の最上階にある教室から、中庭のクリスマスツリーを見下ろしながらつかさが呟く。 普段の男子用制服ではなく女子用の制服に身を包んでいるつかさの表情は、どこか寂しげだ。 「普段は下から見上げるものだからな。立つ場所が変われば見えているものも変わって来る」 その隣でつかさの肩を抱くように寄り添う涅雅。 もうすぐ終わる学生生活。実感はわかなくとも、何となく終わりが近いことだけは感じ取っていた。 僅かな変化だと、誰かは笑うかもしれない。 けれど、何気ない日常が変わって立つ場所が変わってしまえば、今まで見えていた幸せも見えなくなってしまうかも知れない。 戦いに明け暮れた思い出ばかりな2人にとって、唯一の共有した日常を失ってしまうことは、何よりも恐ろしく感じられた。 「……! 力、入れすぎだよ」 「あ、あぁ。すまないな」 「いや、いいんだ。このほうがより暖かい。それに今ここにある時間をしっかりと感じられる」 知らず知らずのうちに涅雅のつかさを抱きしめる腕に、自然と力が入っていた。 「卒業して学生同士じゃなくなっても、君は変わらない……そう思って、いいかい?」 力強く抱きしめられた涅雅の腕の中から、つかさは顔を見上げるように問いかける。 信じたいのだ。今あるこの時間が、続くのだと。 言葉を受けた涅雅は、腕の中のつかさへと笑う。 「何を当たり前のことを言ってるんだ、つかさ」 不安に揺れるつかさの瞳を、力強く見つめ返しながら。 ――不安を吹き飛ばすように。 「明日からもまた一緒に戦おうぜ、相棒」 言葉を返しながら、抱きしめる。 たとえ何気ない日常が終わってしまうのだとしても、彼らの絆は戦いによって繋がれ、これからも戦いの中で強くなっていくのだ。 少し風変わりだけれど、それでも立派で強固な2人の絆だ。
もし、夕焼け時を美しく切ないと感じることが出来たのであれば。 今まで過ごしていた今日と言う時間が、誇れるほど大切なものだったのだ――。
| |