●『星空の祝福』
聖夜には連れ添う二人や友人同士で、はたまた家族でなどとそこかしこで賑やかしい。そんな場所も悪くないけれども、今年は静かな時を過ごしたい――そう考えた一組の男女は夜の学校の屋上を訪れる。こんな時間ともなれば、彼ら以外の姿は無く、屋上は二人の貸し切り状態だ。 「ん……予想通り、ここは静かだったわね」 落ちついた大人びた口調でそう言うのは、小さな金髪の人形のように可愛らしい少女。 「おお、天体観測日和だな、レイナ」 応じたのは彼女よりも頭一つ分以上も大きな白髪の青年。一房だけ紅い髪の毛が印象的である。 「ほら、ヴァイスリット。早くこっちで見ましょうよ」 一足先に屋上の端へと向かう小さな姿をヴァイスリットは微笑ましく見つめながら、ゆっくりとあとをついていく。すると、レイナが柵の前でそれと背比べをしているかのようにも見える事に、更にヴァイスリットの頬が緩んだ。静かに彼女に並んだ青年は、軽く彼女に触れる。 「ん、抱えてやろうかー? そのままだと見にくいだろうしさ」 「大丈夫だから」 ちょっと見にくいのは本当だけれど、とは思いつつ、レイナは彼の申し出を辞退した。 「ほら、良いから。遠慮する必要ないだろー」 けれど、ヴァイスリットはお構いなしにその腕に彼女を抱き上げようとする。その事にレイナは少し驚きつつも、そのまま大人しく彼に抱きあげられた。 「妙な所で強引なんだから……全く」 ぎゅ、と彼の服を掴みつつ、そんな事を呟くレイナにヴァイスリットはいたずらっぽく笑う。 「でもほら、これでよく見えるだろ?」 互いの吐息がかかるような位置で一緒に二人は空を見上げる。 刺すように冷たいけれど、澄んだ空気に冴えわたる紺碧の天蓋には、幾千幾万の星々が思い思いに散りばめられて、またたいている。 「綺麗……ね。戦いの事なんて忘れてしまいそう」 「ああ、ほんと、綺麗だな……」 自然が作り上げた芸術に、今この時だけは、二人は時間も忘れ、ただ光と闇の饗宴に酔いしれるのだった。
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