空廼・嵐 & 神崎・満

●『忘れられない思い出、二人だけの夜に』

 今年のクリスマスは、二人だけで過ごすことに決めていた。
 軽い昼食を済ませてから、食材を買いにスーパーへ。一緒に夕食を作ろうという計画だ。
「何が食べたい?」
「満の作った物なら、なんでもいいぜ」
 満の問いに、嵐はそう答えた。
「強いて言うなら、量があると嬉しいかな……」
「ん! わかった」
 元々、嵐の部屋の調理器具を思えば、それほど凝った料理は作れない。クリスマスを意識しつつ、量を重視して材料を買い込み、二人は帰路についた。

 部屋に戻ると、賑やかなクリスマスツリーが二人を出迎えた。嵐が飾り付けておいたものだ。
「さて、と!」
 腕まくりをして、満は早速調理を開始する。
「俺、何か手伝おうか?」
「えーと、それじゃあ……これ!」
 満に指示され、嵐は卵をかき混ぜた。簡単な作業しか手伝えない上、やり慣れないので時間もかかる。
「これを切ったらその後は……あ、大変、焦げちゃう!」
 ぱたぱたと動き回る満を、嵐はニヤニヤしながら見ている。
「それ、俺がやろうか?」
「ううん、大丈夫!」
「こっち、味見していい?」
「待って! それまだ味付け出来てないの」
「じゃこっちは?」
「だーめ」
「これは?」
「……それもダメ! ってもぉぉ」
 ちょっかいを出しすぎて、ついに満が頬を膨らませた。
「大人しく、向こうで待ってて!」
 怒った顔も可愛いというものだ。叱られた嵐は、いたずらっ子のように笑って肩をすくめた。

 なんとか完成した夕食とクリスマスケーキを二人で食べ、並んで食器を片づける頃には、すっかり夜も更けていた。
 部屋の電気を消して、キャンドルに火を灯すと、途端にクリスマスらしい雰囲気になる。ゆらゆらと揺れる火が室内と温かく照らし、二人の影を壁に大きく映し出していた。
「あー旨かった!」
 嵐は満足そうに言って、どかっとソファに腰を下ろした。満はそんな嵐を見て嬉しそうに微笑む。
「良かった! 美味しいって言ってもらえて」
 ふと、目が合った。寄り添うように座った二人の顔が、どちらともなく近づき、そのまま二人は唇を重ねた。
 嵐の腕が、満の背中に回る。長いキスの果てに、嵐はそっと満をソファに押し倒した。
 嵐は少しだけ頬を染め、腕の中の満を見下ろした。
 気恥ずかしいのか、満は視線を反らしたままだ。
「……いいか?」
 囁くように尋ねると、満は目を上げた。視線が絡み、満はそっと頷く。
「うん」
 ゆっくりと、嵐は満に覆いかぶさる。キャンドルの灯りが優しく照らし出す部屋の中で、二人の影は一つになった。



イラストレーター名:西雅