●『Buon Natale』
クリスマスディナーの材料を買った帰り道。天と一緒に歩いていた暁が、ふと立ち止まった。 「あれは……」 暁の言葉に、荷物を抱えなおして天も振り返ると、視線の先には赤や青、黄色などの光が踊っていた。 「公園のイルミネーションだな」 「ああ、なかなか凝っているみたいだ」 少し離れたここからでも、その眩さや華やかさが伝わってくる。 その輝きに惹かれ、せっかくだから、と2人は公園に寄り道することにした。
一際目を惹く大きなツリーに、雪だるまやトナカイを模ったライト。2人の漆黒の髪に、様々な色の光の粒が舞い降りる。 天と暁はそれらの美しさに感心し、見惚れた。 「見事なものだ。来年は家でもやって……いや、また来る事にしよう」 言いかけて手早く撤回した天に、暁は首を傾げた。 「別に、家で出来なくもないんだが?」 「いや、面倒そうだ、と思った訳ではないぞ」 慌てたように付け足した彼の言葉に、思わず暁は笑ってしまう。くすくすと笑う暁に、余計な一言だったか、と天は少々後悔した。 「……かなり冷え込んできたな」 空気は冷たく澄んでいる。赤、青、白と代わる代わる色を変えて光るクリスマスツリーを見上げながら呟き、暁は手に息を吐きかけた。赤い手袋の両手を包む息は白い。 その様子を見た天は、少し心配そうに彼女の顔を覗き込んだ。 「寒くないか?」 そう尋ねた途端、言った当人の口からくしゃみが出て、持っていた紙袋からリンゴが転げ出そうになった。 それを見た暁はきょとんとしたが、再び小さく噴き出す。 さっきから、何やら笑われてばかりだ。全くもって格好がつかん、と少し情けなさそうに天は顔をしかめた。 「……お前の方こそ」 肩を竦めてそう言うと少しだけ考え、暁はすっと天の方に手を伸ばした。そしてしれっとした顔で、自分のマフラーの長く垂らした残りをぐるぐると彼に巻いてやる。 巻かれたマフラーに手をやり、天は一瞬目を見開いたが、すぐに柔らかな表情になった。 「ありがとう」 暁は礼を言われても、なんの事はない、という素振りで歩いているけれど、そんな彼女の優しさが純粋に嬉しい。 勿論、マフラーを分け合うことで少し距離が近くなったことも。 「行こうか」 2人は公園を出ると、並んで帰り道を歩き出した。 「寒いだろ? もう少し近寄れ」 天はそっと暁の肩を抱き寄せる。 伝わる、彼女のぬくもり。それを感じながら、天は何度目かの祝いを口にした。 「誕生日おめでとう、だな」 今日は12月25日、聖なるクリスマス。そして……天と暁の誕生日。 暁がまた手袋に白い息を吐けば、その暖かさはふわりと2人の心を包むようで。 「……そちらこそ。誕生日おめでとうだ、天」 暁はそう言って、天に優しい微笑みを返した。
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