神農・撫子 & 鈴宮・玲音

●『帰り道』

 闇夜を照らす街のイルミネーションと喧噪から遠ざかるようにして、撫子と玲音は歩いていた。
「一人で歩けますもの」
「その足ではムリだよ」
 背中から聞こえてきた強がる撫子の声に、玲音は静かに応える。
 クリスマスのイルミネーションを見に出かけた二人だったが、玲音の長身に合わせようとした撫子がヒールの高い靴を履いて、文字通りの背伸びをしたまでは良かった。
 撫子の誤算は、その靴が普段履き慣れていないものだった事、だろうか。帰る頃には撫子の足は靴擦れで歩きにくくなり、玲音に背負われる羽目に陥っていた。
 クリスマスデート! と意気込んだ撫子にしてみれば当然面白いはずはなく、不満の表情がありありとしている。
 その証に、無理矢理背負わされた撫子は、しばらく無言を通していた。
「そんな物を履かなくても、嫌でも歳は取るよ」
 それと共に、身長の差もなくなるから、と、撫子の気持ちを慮った玲音が諭した。その表情は困ったように微笑んでいる。
「それなら、ナァが大人になるまで待ってて下さい」
 玲音の言葉が口火を切り、まだ不満そうな撫子が無茶を言うと。
「撫子が大人になる頃には、俺はおじさんだな。責任取ってくれるのか?」
 玲音は冗談交じりに応じる。
「そしたら玲音さんをお嫁さんにしますもの」
 と、さらに撫子が無茶を言えば。
「それは頼もしいな」
 玲音が慣れた調子で応える。確かに困っていたが、いつも二人の間で交わされる言葉のやりとりを、玲音は楽しんでいた。
 このような関係になったのはいつからだろう、と思う。
 玲音にしてみれば、同じ結社のかわいい後輩であり、撫子にとっては頼れる先輩だったはずだ。押しの強さは撫子の方が一枚上手のようで、玲音が通ったあとには撫子が通るような、結社ではそんな日常が一種のお約束と化していた。
「来年のクリスマスも……」
 背負わされている撫子は、両足に履いた厚底の靴をぶらぶらさせながら、玲音の背にしがみついて提案する。
「楽しみにしているよ」
 玲音は快諾すると、撫子の成長を愉しみにしながら、帰路へ至る道を一歩ずつ踏み出す。
 撫子は玲音の優しさを胸に、玲音は撫子のぬくもりを背に受けて、二人の視界のわきを電飾で彩られた街路樹の景色が、ゆっくりと後方へと流れていった。



イラストレーター名:isa