●『ふたりのあまあまクリスマス』
白いクロスのテーブルの上には、美味しそうに輝くフォンデュ用のカットフルーツ。 小さめのフォンデュ鍋からは、甘いチョコレートの香りが漂っている。 「お待たせしました、識先輩」 名前を呼ばれて識が振り返ると、キッチンからトレーを持った紫織が姿を見せた。 トレーの上には、軽く摘めるような食べ物が何種類か乗っている。 「ありがとう。ごめん、用意任せっぱなしで」 「そんな、構いません」 剣術も勉強もスポーツもバッチリこなす識だが、料理を始めとする家事全般はどうにも苦手だ。ゆえに、このパーティーの料理もすべて紫織に任せていた。 困ったように肩をすくめる識に、紫織は首を振る。彼女も料理が特別得意というわけではないけれど、識に喜んでもらいたくて、頑張って用意したのだった。 「さあ、それじゃいただこうか」 トレーの皿をテーブルに並べると、2人は向かい合って席についた。識がジュースを注ぎ、紫織もグラスを手にする。 「紫織、メリークリスマス!」 「メリークリスマス、識先輩」 2人のグラスが触れ合って、チン! と綺麗な音を立てた。2人きりの、クリスマスパーティーの始まりだ。 「どれから食べようかな? うーん、どれも美味しそうで迷うな」 「ふふ、そうです、ね。フルーツにマシュマロ、パンもありますよ」 テーブルには色とりどりの具材が、一口サイズになって並んでいる。 識はそれらを眺め、何かを思いついたように相手の顔を見た。 「紫織は、どれが良い?」 「私ですか? 私は……イチゴ、でしょうか」 「イチゴね」 識はフォークでイチゴを取ると、たっぷりとチョコレートを絡めて紫織の口元へと差し出した。 「紫織、はい、あーん♪」 紫織は一瞬きょとんとするが、少し頬を染めながら自分もフォークでイチゴを取ってチョコレートに浸す。 「じゃあ、先輩には私から。あーん……」 2人はお互いに、相手の差し出したフォークからぱくりとイチゴを食べた。 「うん、美味しい!」 「本当、とっても美味しいです」 こんなに甘く、美味しく感じるのは、大好きな人と食べさせあっているからだろうか。 イチゴの甘酸っぱさと、とろけるチョコレートが、心まで甘くしていく幸せな時間。 フォンデュを食べる紫織を識が見つめていると、彼女が顔をあげた。少し照れた紫織に、識は悪戯っぽく片目を瞑る。 「ふふ、それじゃあ今度はマシュマロにしようか」 「あ、では私はチェリーを」 それぞれのフォークで、チョコレートフォンデュを再びお互いの口へ。 甘い香りに包まれた2人は顔を見合わせて、嬉しそうににっこりと笑い合った。
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