●『雪が繋ぐぬくもり』
いたずらっこで、幸福を呼ぶという小人のユーレニッセ。 その小人が通したのは正直な気持ち。正直な、真っ直ぐな言葉。偽る事は出来ない、許されない。 本当に心の奥底、大事な人だけに贈られる、この世でたった一つの大切な、ことのは。
冷える夜空は所々に雲がかかり、星が見えるのは僅かな隙間だけ。だがその僅かな隙間からでも、星達は地上を見つめるかのように静かに瞬いていた。 「ねえ、アスト。何をそんなに怒っているの?」 そんな星々にも劣らない、紫水晶のような瞳を揺らし、大股で前を歩く恋人に問いかける。だが返ってくるのは「は? 別に何も怒ってねぇよ!」という素っ気無い答え。 気取られないように、冷える指先を温める振りをして小さく溜息を吐く。 声を掛けても決してこちらを見ようとしないアストラムを、後ろから見つめるアルステーデ。彼女は気付いていないのだろう、気持ちを素直に打ち明けた反動か、彼が気恥ずかしさで一杯だという事に。 お互い黙って歩く内、アルステーデもニッセを通して伝えた気持ちを思い出して頬がほんのりと赤みを帯びる。それを冷ます様に吹く風の冷たさも今は心地良い。 そんな彼女の様子を余所に、前を歩くアストラムが今にも唸りだしそうな表情で己の赤い頬を軽く擦る。 (「柄にもねぇ事言った後だから顔合わせ辛いってのに……全く気にしてねぇのかよ」) あぁ畜生、と言いたげに大きく溜息を吐いた彼の鼻先に、ちょこんと何かが付いた。 何かと思い顔を上げると、空から降り注ぐのはゆらゆらと揺れながら舞い降りる柔らかい雪。 立ち止まった彼の背にぶつかる直前で、アルステーデは足を止めた。 「……ほら見ろ」 釣られたように空を見上げる彼女の口から「あら」と言葉が零れる。 「テメエが雪が降るような事言うからだ」 ぶっきらぼうにそう告げるアストラムに、今度は抗議を示すように「あら」と言葉が零れた。 「雪が降るような事を云ったのはお互い様だわ」 ふふ、と笑う彼女を僅かに振り返り、手を取った。少し乱暴な仕草なのは照れから来るものなのか。 突然の事で驚き、反射的に手を引こうとした彼女の手を、彼は押し留めるように強く握り締める。 「いいから手出しやがれ……冷えるだろ」 そっぽを向きながら言うアストラムの頬が僅かに朱を差している事に気付き……そして、彼の手から伝わる温もりに、アルステーデはまた顔が赤くなる。だが先程のような照れではなく、じんわりと、だが柔らかく包み込むような暖かさに心が満たされていくのを感じていた。 きゅっと手を握ると、放さないと言わんばかりに握り返してくる手。決して力任せのものではなく、優しい力で。 (「……本当。解っていてやっているなら、ずるい子だわ」)
ねぇ、気付いてる? 「今日は雪が降った方がいい日らしい」って言ったのは、貴方なのよ?
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