永月・ヒナノ & 鬼灯・遙

●『はる☆ひなのクリスマスデート♪』

 今日はクリスマス・イブ!
 街にはカップルがいて、カップルがいて……で、カップルがいます。
 なのにわたしは、親友の遙さんとデート。
 お洒落な喫茶店に、2人で入ったまでは良かったのですが……。
「でね? あの人ったらそのとき初めて『遙〜』って呼んでくれて……」
「よ、よかったですね〜♪」
「んー、でもこれからどうやってアプローチしよう? 忙しそうだし……」
「ま、まずはバレンタインで猛烈アピールとか」
「それだよ、ひなのん」
 実は遙さん、今日はイブなのに意中の人から声を掛けられなかったのです。
 だからってわたしに相談しますか……幸せそうに……。
 わたしには、相手の候補すらいないのですが。
 遙さんのノロケ話は、冬の季節に花満開といったところでしょうか。
 さっきから適当に、カクカクと頷くわたし。完全においてけぼりくらったような気分です。
 親友である遙さんを応援したいです……したいけど何故でしょう。
 きっとわたしの顔は、ピクピクって引きつっちゃってます。

 収まれ、わたしの黒いオーラ!!

 そもそもこうなったのは、今日、遙さんが声をかけられなかったからなのです。
 そう……それなら!
「遙さん、思い切ってこちらから誘えばいいんじゃないでしょうか」
「……え?」
 石像のように固まる遙さん。まばたきもしません。このままサンタさんの衣装に着替えさせれば店頭に置いておけそう……って、そんなことを考えている場合ではありません!
「…………ひなのん」
「はい?」
「……メールでいいかな?」
「直接、電話でお話した方がいいと思いますよ」
 遙さんは、硬直したまま動きません。
「…………ひなのん」
「はい?」
「……メールでいいかな」
「……は、はい。メールで、いいと思いますよ」
 遙さんは鞄から携帯を取り出すと、メールを書き始めました。
 うわぁ……ものすごく手が震えています。
「……よし、送った」
 黙って、じっと携帯を見つめる遙さん。
 ゴースト退治の時にも見せたことがない表情をしています。
 その時。
 震える携帯!
「来た!」
 食い入るように携帯の画面を見る遙さん。
「うう……ひなのん……」
 遙さんは、目にうっすらと涙を浮かべています。
 こ、これはもしやバッドエンド?!
「ちょっと遅くなるけどOKだって!」
 遙さんは満面の笑顔で、私の手をとってがっちり握手しました。
「ありがとう! ありがとう、ひなのん!」
 ここまでは良かったのですが……。
「そうねー、あの人けっこう奥手なのよね」
「……そ、そうですね〜♪」
「私たちって『長期戦』って感じでやってきたじゃない?」
「……は、はい」
 結局、遙さんのノロケ話は終わることがありません。
 わたしは、ちょっとうんざり。
 でも遙さんが幸せそうなのを見ていると、やっぱりわたしも嬉しくなるのでした。



イラストレーター名:水瀬るるう