アイ・サカザキ & ユウ・サカザキ

●『姉妹の聖夜〜負けるな、ガンバレ、極限受験生〜』

 夜の街に彩られる色とりどりのイルミネーション、楽しげな音楽に、赤と緑で飾られたショーウィンドウ。世間では、今日はクリスマス。街は大いに盛り上がっている。
 が、この二人にはクリスマスなんて関係ない。クリスマス以上に大切なことがあるからだ。
 必勝と日の丸がかかれたハチマキを額にしめ、ジャージ姿で机に向かうアイの姿は、誰がどう見ても受験生にしか見えない。クリスマスシーズンは、大学受験生にとって最後の山場だ。無事に進みたい道への切符を手に入れるまで、わき目も振らずに取り組むしかない。
 同じく必勝ハチマキを巻いたユウは、妹の邪魔にならないよう気を使いながらも、受験勉強に取り組むアイの世話を甲斐甲斐しく焼いていた。
「この問題集は?」
「全部回答したから捨てておいて」
「この英和辞典どうする?」
「まだ使う。後ろに置いておいて」
 問い掛けるユウに対して、机に向かったまま、振り向きもせずにアイは答える。ペンを片手に真剣な眼差しで問題集と睨めっこをしている様子を見て、ユウは静かに微笑んだ。
 真剣に勉学に励む妹の姿は、姉としては誇らしいものがある。頑張って欲しいと思うし、これだけ頑張っているのだから絶対大丈夫、とも思うし、そして何よりできる限り応援してやりたいと思うのだ。
 だからこそこうしておそろいのハチマキをしめて、何か手伝えることは無いかと気を配っている。
 それでも根を詰めすぎるのも、身体にも脳みそにもよろしくない。
 カリカリと走らせるペンが、一瞬ぴたりと止まったスキをついて、ユウは優しく声をかけた。
「あと30分くらいしたら休むようにね。そのほうが効率がいいんだから」
「そうする。休まないからってまた絞め落とされたら敵わないし」
 その言葉に、今度はユウの方を見たアイが真面目くさった顔で言いかえす。顔を見合わせて数秒、クスクスと二人は笑いあった。
 一心不乱なのも大切だが、息抜きやガス抜きをしないとパンクしてしまう。そうやって気を使ってくれる姉の心遣いが、アイにはくすぐったくも、嬉しい。
「来年、合格したら一番いい着物で遊びに行きましょう」
「したら、じゃない。するのよ」
「そうね」
 自信たっぷりに胸を張って、ふふんと笑うと、アイはまた机に向き直った。カリカリと走るペンの音と、紙をめくる音だけが、室内で聞こえる音だ。
 ピンと伸ばされたアイの背中を見守りながら、ユウはよし、と自分にも小さく気合を入れた。受験勉強は、自分との戦いだ。勉強面で手伝えることには限界がある。ならばせめて、できる限りの応援はしてやりたい。
 クリスマスパーティーはしないけれど、せめて晩御飯くらいは少し豪勢にしようかしら、と考えて、ユウは自分のその思いつきに満足そうに微笑んだ。
 今年のサカザキ姉妹のクリスマスは、クリスマスらしからぬものの、どうやら暖かいものになりそうである。



イラストレーター名:魂神