蝶華麗・パピヨン & 時任・紫昏

●『蝙蝠傘から砂糖菓子へ』

 クリスマスの夜は多くの人たちが大切な人たちと時間を共にする。過ごし方はそれぞれではあるけれど、1年に1度の特別な日をそれぞれが思い思いに過ごすのだ。
 パピヨンと紫昏もクリスマスの夜を過ごすひと組だった。2人で一緒に食事をして、今はクリスマス色で染まった街並みを共に歩いている。
「あのレストランはなかなかよかったな」
 満足げな顔をしつつパピヨンは隣の紫昏に言う。望まれていたビルの最上階……というわけにはいかなかったけれど、今歩く地面よりは高いところでの食事だった。味も悪くないし、いい場所だったと思う。
「うん、確かに。また行っても良いかも」
 紫昏の反応も良くてパピヨンは嬉しく思う。
 そして改めて紫昏の服装を見て、より笑みを濃くした。紫昏が着るのは淡いピンクのドレスで、その姿がとても綺麗で見とれてしまう。自身はコートを着てしっかり寒さに対抗しているのを考えると罪悪感を感じてしまうが、それでもそのドレス姿を眺めていたいと思う程度には自分も悪い人間だと苦笑する。
 でもそれは致し方なことだとも思う。今日はクリスマスなのだから、それくらいの悪さも許されるというものだ。
 その悪さの代わりというわけでもないけれど、しっかりと紫昏の手を握ってゆっくりと歩を進める。
 周囲の人たちも自分たちと同じようなゆったりとした歩調。彼ら彼女らもまた、1人ではなく自分と同じように大切な人と歩くのだ。隣にいる人と手を取り合い、または今いなくとも心にいる大切な人を想い進む。
 誰かへの強い想い、心にある何かしらを持ちながら歩くにはこの歩調が丁度いいのかもしれない。
 ゆっくりと進む人々を楽しませるイルミネーションツリーが煌びやかに輝いている。その美しいツリーに紫昏の姿を重ねてみる。パピヨンは気付けば立ち止り、ツリーの1本に紫昏を押しつけていた。
「急に、どうかしたのか……?」
 急なことで紫昏は抵抗することなく、頬を赤くしてパピヨンを見つめている。何をされるのかわからないわけじゃない。けど、やはり照れてしまうのはしょうがないことだ。
 そんな紫昏を可愛いと思い、そのままゆっくりと唇を重ねた。優しく肩を抱き、しかし気付けば強く抱きしめている。
 流れる人々の中で立ち止まる姿は、蝙蝠傘から砂糖菓子へと枯れゆくように美しいと感じられた。
 クリスマスの夜空の下で静かに、しかし熱く寄り添う2人を祝福するようにイルミネーションツリーが輝いていた。



イラストレーター名:高澤