●『聖夜、告白、すき焼き』
星空よりもきらめく灯りがこの夜を彩る。学園は、これでもかと言わんばかりの電飾の化粧をして、クリスマスムードを盛り上げていた。 光溢れる道を、優人と白亜は2人歩いている。日常を幻想的に変えてくれる輝きに目を奪われながら。 「クリスマスのイルミネーションってとっても綺麗ですよね」 光が反射した漆黒の瞳をきらきらさせて、きょろきょろとしている白亜に優人は微笑みながら話し掛けた。 (「でも白亜さんの瞳の方がもっと……」) なんて。そんなベタな想いを見透かされないように。 「そうだなー」 イルミネーションを眺めたまま答える白亜の頬が少しだけ、ほんの少しだけ高潮しているように見えるのは祭りの興奮の所為だろうか。 (「優人とクリスマス過ごすなんてドキドキだぜ……」) なんて思ってることを隠すように、白亜はしきりにはしゃいで見せている。 一見いつも通りに見える2人。だが内心は喜びを伴った心地良い緊張に満ちていた。特に優人の心臓は、来るべきその時が近づくにつれ、次第に高鳴っていった。 背の低い街路樹に、無数の小さな青い光の花が咲く小道を往く。この先の広場はここ以上に色彩に溢れ、その色達を従えるように、大きなツリーが淡く鮮やかな輝きに身を包んでいる。ツリーの前まで行ったら、その時は――。 前から何度も、何度も言おうと思っていた。だけど恥ずかしくて言えなかったこの想い。 温厚で、少し優柔不断な彼の一世一代の決意。 (「今度こそ、好きだってちゃんと告白します!」) そして、いよいよツリーの前まで来た2人。一際きらびやかな輝きが溢れている。 「あ、あの!」 優人は意を決し、白亜に声を掛けた。感心した表情でツリーを眺めていた白亜は、不思議そうに振り向く。 「白亜さん! す、すすす……」 「す?」 緊張の余り言葉が続かない。白亜は不思議そうな顔をしたまま聞き返した。 「すき焼き!」 「? すき焼きが食べたいのか?」 突拍子の無さ過ぎる優人の言葉に、白亜の頭にはいくつもの疑問符が浮かびっぱなしだ。 「そうじゃなくて、えっと……その……」 小首を傾げる白亜に、顔を真っ赤にしながらも真っ直ぐ見つめる優人。まだ鼓動は高鳴り続けているが、今は真剣さが、白亜への想いが、緊張を凌駕しつつあった。 「ぼ、僕……は、白亜さんの事が好きです!お付き合いしてください!!」 普段は大人しい優人が叫ぶように伝えた告白。白亜はびっくりして、その後照れながら微笑んで、手でOKサインを出した。
帰り道。 「優人があんな事を言うから、何だかすき焼きが食べたくなってきた」 さっきの失敗を思い出した優人は頬を赤く染めて俯きながら、 「うぅ……それじゃ、すき焼きの材料を買いに行きましょうか?」 「そうだな、一緒に食べよう」 笑顔で頷く白亜。 緊張の告白も、いつか笑い話になる失敗も、聖夜のすき焼きも、2人の思い出として輝き続ける。聖夜のイルミネーションのように。
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