●『猫と一緒のクリスマス…あれ、ねこ?』
クリスマスの昼下がり、あたたかな室内にはたくさんの猫、猫、猫。リリエルに誘われ蔵人がやってきたのは、里親探しを兼ねて今日だけ開かれる猫カフェ。たくさんの可愛い猫に囲まれ、リリエルはいつにも増して御機嫌だ。 クリスマスらしい店内に漂うのは、どちらかといえばのんびりした空気。蔵人の隣にあるのは、終始つるんでる大切な相棒の、はしゃいだ笑顔。相棒として……いやそれ以上に、ひとりの女性として、以前とは違う気持ちで蔵人はその横顔を眺め、あらためて思う。リリエルの喜ぶ顔を見ていたい、と。 「ほら、蒼い瞳の猫ちゃんになるにゃ〜ん♪」 「……に、に……出来るかァーッ!」 とはいえ、猫になれとのリクエストはさすがにちょっと恥ずかしい。無理と知りつつも一応やってみようとするあたり、ふたりの力関係がなんとなく決まってみえるのはご愛嬌だ。
「クロードも遊ばないと損よ? ほらほら」 「あ、ああ……」 猫じゃらしをぱたぱたと振って、隠して。好奇心いっぱいのやんちゃな猫と遊ぶリリエルの横で、蔵人はリリエルから押し付けられたおとなしい猫をそっと撫でる。優しげな手つきに猫も安心するのか、ごろごろと喉を鳴らして目を細める様子が愛らしい。 それぞれ違うことをしていても、不思議と距離は感じない。お互いがそこに居ることをちゃんと感じているから。ロマンチックな雰囲気には遠いけれど、たまにはこんな風に、何もない時間があってもいいだろう。
窓からの陽射しと猫たちの温もりは心地よい眠気を誘う。複数の猫に囲まれて楽しげに過ごしていたリリエルだったが、意識は段々と夢うつつ。静けさでそれを察した蔵人が、深く寝入ってしまうのはまずかろうとそおっと起こしにかかる。すると。 「……クロ猫は、ここ」 「!?」 寝ぼけているのか、起きているのか。リリエルのあたたかな手が蔵人をふわりと引っ張る。突然の触れ合いに驚くしかない蔵人の頭はそのまま、リリエルの膝にぴったり収まってしまった。予期せぬ膝枕に固まる蔵人と、どうやら本当に寝ぼけているらしいリリエル。自分が意識するほどには自分が異性扱いされていないことを再認識しつつ、この状況を喜ぶべきなのか戸惑う蔵人であった。 それでも今はただ、夢の世界のリリエルからもらったサプライズプレゼントに埋もれて。リリエルと、猫と、冬の陽射し。二人が今ここで感じている全てが、いつまでも色褪せぬよう、蔵人はこっそりと祈った。
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