●『クリスマスのバイト〜いちゃいちゃプラス〜』
クリスマスイブの夜、人々が行き交うケーキ屋の前に、焔と凛の姿はあった。それぞれサンタのコスチュームに身を包み、用意された特設スペースに積み重ねられたケーキの山の前に立ち、せっせとケーキを売っていく。 2人は今宵、一緒にここでアルバイトをしているのだ。 「うー……寒い」 「だからあっちの服の方がいいって言ったろ?」 客が途切れた合間に、凛が声を震わせて言う様子に、焔はやれやれと溜息をついた。彼女の格好は、腕も足も丸出しのサンタガール服で、どう考えても暖かいとは言えない。それでも何とかなるはずだと、その衣装を選んだのは凛自身だったのだが。 さすがに根性だけで何とかするのは無理だったらしく、辛そうに体を震わせている。それを見ていると、焔としても何とかしてやりたいのだが……。 (「今から着替えるのは無理だよなあ……」) この仕事は時間との戦いだ。生憎と、その時間は取れそうに無い。 となると、他に良い案は……。 「店員さーん、これくれる?」 「はい、こちらのケーキですね。ありがとうございます!」 客に応対しつつ考える焔。自分の前の客が途切れたところで、凛の所に並んだ客が頼んだケーキを、後ろの山から取ってやる。 「ありがとうございました! ……ケーキありがとうございます」 客を見送った後、小声で礼を言ってくる凛。また客が途切れたな、と思えば、やはり凛は辛そうに「うう……何か対策は……?」などと呟いている。 「んー、じゃあ、人目の無い時だけでも、こうするか?」 これならどうだろうか。焔は、ぼんやり考えていたそれを実践することにした。羽織っていたコスチュームの前のボタンを外して……。 「へ?」 ……目を丸くした凛を、服の内側へと引っ張り込む。 「びっくりした。一瞬、変態に〜、なーんて言いたくなったよ」 「そうか。……このまま凍えとくか?」 「冗談冗談」 えへっと笑って、すっぽり内側に収まる凛。触れ合って体を温めつつ、凛は背中の焔を見上げた。 「ありがとう」 「どういたしまして……っと」 新しい客に気付く焔。こうして過ごせる時間は決して長くは無い。 けれど、たとえ短くても……互いのぬくもりに触れ合って過ごす時間は、とても暖かくて、なんだか嬉しくて――。 そんな、ささやかな幸せを噛み締めながら、2人のクリスマスの夜は更けていくのだった。
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