●『Linksmu Sventu Kaledu』
(「……これが高校生男子のお部屋かぁ……」) 掃除の行き届いた、明るい色調の家具が並ぶ部屋。 幼馴染とはいえ、マロンがラピスティの部屋を訪ねる機会など久しく無かったわけで――。 彼らしいけれど、彼女の中の高校生男子のイメージとはちょっと違う気がする部屋を、彼女は眺める。 「何か変かな?」 テーブルに並べたグラスにジュースを注ぎながら、ラピスティが顔を起こす。 「う、ううん、ラピスらしい部屋だなって」 マロンは慌てて微笑む。勿論良い意味でそう思ったのだけど。 ラピスティは床に置いてあったケーキの箱を取り出し、皿に取りだした。 「小さめのケーキにしたよ。……そういえばチョコケーキは駄目だったよね?」 「えっ」 「……あれ? 違ったかな?」 「ううん、違わないけど。よくそんなこと覚えてたね」 チョコケーキが苦手だなんて話、一体いつしただろう。きっとずっと前のことに違いない。 驚いているマロンに向けて、彼はにこりと微笑んだ。 「誰よりもマロンの事を知っている自信はあるよ。幼馴染だからね」 「……う」 さらっと告げられた言葉に、マロンはうっと胸が詰まる。 なんだかずるい、と思っちゃうから。 色んな意味で勝てないって思っちゃうから。 彼の部屋を見て「意外だな」と思っちゃう自分。マロンのことなら誰よりも知ってるよってさらっと言えちゃう彼。 「……うう」 「あれ? ……マロン、どうしたの?」 黙り込んだ彼女を見つめ、ラピスティは困惑げな顔つきになる。 彼女の小さなコンプレックスには、流石の彼にも気づけないらしい。 彼は暫く彼女を見守り、それから優しく話しかけた。 「そうだ、ケーキを食べ終わったら、二人で何処か行かない?」 「えっ?」 マロンは顔を上げた。 「遊園地でも水族館でも、好きな所に付き合うよ」 「……ボクで良いの?」 勿論、というように彼はゆっくり頷く。 マロンは彼の顔をじっと見つめ、嬉しい様な、安堵するような気持ちになりながら、 「教会とかどうかな……クリスマスだしお祈りに行かない?」 と小さな声で尋ねた。彼は微笑んで頷いてくれる。 「いいね。じゃあ食べ終わったら行こうか」 「うん!」 マロンはやっと無邪気な笑みを浮かべると、目の前の可愛らしいケーキに視線を落とす。苺ののった小さなケーキは、とても美味しそうだ。 「それじゃ乾杯しよう」 グラスを手に取るラピスティに悪戯っぽく微笑み、マロンはクラッカーを手にとって、乾杯の代わりに元気よくそれを引いた。 「かんぱーい!」 「メリークリスマス!」 二人は微笑み合うと、ジュースを味わい、ケーキを頂く。 彼が選んだケーキは甘さもちょうどよくて最高に美味しくて。 「美味しいものは早めに食べるに限るよね」 もきゅもきゅと笑顔でケーキを食べる彼女を、彼はやはり優しく穏やかな笑顔で見つめるのだった。
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