●『穏やかで、ほっくほくのクリスマス』
二人にとっての、初めて一緒に過ごすクリスマス。 月凪の部屋の中、窓際のクリスマスツリーを横目にまゆりはクリスマスのための飾りつけ、月凪は彼女のための手料理とケーキを用意し、それからまゆりの好物である焼き芋もしっかりと準備していた。 「……改めると、けっこう照れるな」 ぽそりと、そう呟くのは月凪。綺麗に飾られた自分の部屋をゆっくりと眺めて、また僅かに頬を染める。だが、ひとまずこれを並べなければと、テーブルに料理を運んでいく。 全ての準備が整ったところで、二人きりのクリスマスパーティーが始まった。 カチン、と響くのはオレンジジュースの入ったグラス。ソファに腰掛けた二人は、互いに微笑み合いながらそれを口にした。 「メリークリスマスです」 「ああ、メリークリスマス」 まゆりがにこりと笑ってそう言うと、月凪も遅れずにそう返事をした。 そして二人は他愛の無い会話を、ぽつぽつと語り合う。今までのこと、これからのこと。その間に、まゆりは好物の焼き芋を手にして大事そうに両手で抱えながら、話を続けた。 「そう言えば、この間の戦いは……本当に心配しました」 次にまゆりが続けた言葉には、少しの重みがあった。 「…………」 それを受け止めて、月凪が視線を落とす。 この間の戦いとは、数日前に起こった戦争の事を指しているのだろう。 あの時、月凪はまゆりの心配も省みず、友人を救うために無茶をしすぎな面があった。 「心配かけて、すまなかった……」 「はい、でも……皆が無事だったから、良かったです」 まゆりの言葉に対して、月凪は己の行動を振り返りつつ、素直に謝った。 するとまゆりはふわりと笑いながら、そう返す。皆が無事で、今があるのだから、それでいい。彼女はそう思っているようだ。 その微笑に、月凪は自分の左腕がゆらりと伸びた。そしてまゆりの肩を抱き、自分へと寄せる。 焼き芋を美味しそうにほお張っている最中だったまゆりは、その行動に驚きつつも、頬を染めている月凪を見てくすりと笑った。 そして。 「大好きですよ、ナギ君」 と、ささやくようにして言葉を紡ぎ、まゆりは身を乗り出す。次の瞬間には、彼女のくちびるは月凪の頬に柔らかく触れた。 受け止めた側の月凪は突然のまゆりの行動に、さらに頬を染める。だが、彼はそこでまゆりの手をとり、彼女の手にしていた焼き芋をテーブルの上へと置く。 「俺も好きだよ……ずっと、一緒に居てくれ、な」 静かな声音でそう言うと、月凪はまゆりをさらに抱き寄せて彼女のくちびるに自分のそれを重ね合わせた。 突然の事に、まゆりが目を見開く。だがそのまま、肩の力を抜いて彼の行動に応えた。 ゆっくりと瞳を閉じて、月凪の胸にそっと手のひらを添える。 その温もりは、柔らかくて甘いものだった。彼女が好きな焼き芋よりも、ずっと。
同じ時間を重ねた二人の夜は、それからゆっくりと流れていくのであった。
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