●『White Christmas in Yokohama』
「今日は楽しかったね。久しぶりに二人でいられて楽しかったよ」 「楽しいパーティーでしたね、お料理も凄かったですし」 雪の降る横浜、赤レンガ倉庫街のイルミネーションを眺めながら歩く二人。 遥日は黒いタキシード、狼華は蒼いカクテルドレス。 知人のパーティーの帰りで二人とも正装である。 「久しぶりの水入らず、少し遅くなっても大丈夫ですよね?」 帰り際、狼華にそう誘われたのだが、遥日としてもこのまま別れるなどと考えていなかった。 「綺麗なイルミネーションだね……」 「さすが観光スポット、イルミネーションも素敵ですけど……、人混みも凄いですね……」 夜景は美しいし、ゆっくりと歩けてはいるが、『のんびりと』とか『落ち着いて』とか『静かに』といった本来の目的は達せられていない。 もっとも、これはこれで、年の終わりのお祭り気分があって悪くないのかもしれないが――。 「狼華、寒くない?」 「いえ、大丈……くしゅん」 「ほら。これくらいしかないけど――」 「……ぁ」 イルミネーションを眺めながら何気ない会話を交わして歩いていると、狼華が少し寒そうにしているのに気付く。 遥日は小さくくしゃみをする狼華の腕を取り自分の腕に絡ませ、一緒に自分のコートを羽織る。 そうして寄り添いながらしばらく進むと、やがて港に到達する。 イルミネーションが終わったこともあり、ここまで来ると人影もまばら、静かな夜の闇が二人を包み込む。 「夜の海……、私は嫌いじゃないんですよね……」 「うん。何か幻想的というか神秘的というか……、吸い込まれそうだね……」 黒く波打つのを眺め、ぼぅっと吐き出すように語る狼華。 しばらくの間、二人はただ静かに、ゆるやかにうねる海を見つめる。 「狼華……、愛しているよ……」 「遥日さん……」 ゆっくりと。 触れ合うほどの距離にいた二人はやがて自然に近づき、その唇を重ね合わす。 雪の降る冬の夜は寒くても、こうして二人寄り添えば乗り越えられる。 「こんな風に――」 この先に苦難があるとしても、二人でならば大丈夫だと、遥日は狼華の細い肩を抱きながら確信するのだった。
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