●『『クリスマスなんだから甘えてもいいよな?』』
ウルリッヒとディートリヒ、兄弟2人だけのクリスマスイブ。部屋中に散らばった紙吹雪やクラッカーが、楽しかったひとときの名残を偲ばせる。 「さて、片付けは明日に回してそろそろ寝ようか」 ウルリッヒが、部屋の電気を消した。 部屋の片隅では、クリスマスツリーのイルミネーションが瞬いている。冷え込んできた部屋と、喧噪の後に訪れた静けさ。いつも強気な態度を取るディートリヒの心に、人恋しさにも似た一抹の寂寥感が宿る。ディートリヒは無言のまま、そっと、ウルリッヒの背中に抱きついた。 「おやおや、今日のディートは甘えん坊さんだなぁ」 「……うるせー」 ウルリッヒが、愛おしそうにディートリヒの頭を撫でる。少し照れくさそうな表情のディートリヒ。ウルリッヒの背中から伝わる温かさが、心地いい。 窓の外には、いつしか舞い始めていた粉雪。 時折、風の音が聞こえる。 短い沈黙の後だった。 「……なあ、ウル」 「何だい?」 「毎年、俺が寝てる時にプレゼントを置いてくれてるよな?」 「僕は知らないよ。ディートはいい子だから、サンタさんがプレゼントをくれるんじゃないかな」 ディートリヒの問いかけを、ウルリッヒはさらりとかわす。 「じゃあそのサンタに言っといてくれよ。顔面に落とすのはやめてくれないか、マジで、って」 「ふふ、それが人にものを頼む態度なのかなあ?」 ウルリッヒは、ディートリヒの髪の毛を指先でくるくると巻いて遊ぶような仕草をしながら、いたずらっぽい笑顔を浮かべている。そんな兄の態度に少しすねたような顔をしたディートリヒだったが、やがて穏やかに目を伏せると、ウルリッヒを抱く手に力を込めた。 「……ありがとう、な」 消え入りそうな声で、本当の気持ちを告げるディートリヒ。 「……今年のサンタさんは、少し優しくなるかもしれないね」 「ほんと、あれだけは勘弁してくれ」 ディートリヒがウルリッヒに抱きついた姿勢のまま、2人は楽しかった1年間を振り返る。なぜか王様ゲームになってしまったバレンタイン。ウルリッヒはマッドハッター、ディートリヒはアリスの仮装で参加したハロウィン……。思い出話は、いつまでも尽きることがなかった。 そんな穏やかな時間がどれくらい流れたのだろう。 いつの間にか、枕元にある時計の日付は変わっていた。 「……メリークリスマス、ウル」 「メリークリスマス、ディート」 ふたたび、2人の間に沈黙が訪れる。 (「クリスマスなんだから、甘えてもいいよな?」) ウルリッヒの温もりを感じながら、聖夜だけの贅沢に身を任せるディードリヒ。 (「クリスマスじゃなくても、甘えていいのにな」) ウルリッヒは無言のまま、ディードリヒの手に、そっと自分の手を重ねた。 2人の思いは募る。 それは降り続く、雪のように。
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