●『むにゃむにゃ…お姉さまの胸はあたし専用なんだからぁ』
銀誓館学園のクリスマスパーティーは、いつも通り賑やかに行われた。 (「今年もなかなか楽しかったわね」) ベッドの中でソフィアはそのパーティーの事を思い出していた。 きれいに飾り付けられたテーブルにはたくさんの料理とジュース。部屋の隅では、誰かの歌うクリスマスソング。 学園に入って初めてのパーティーに、ステラはすっかりはしゃいでいたようだった。友達と交換したプレゼントを持って、帰って来た頃には少し疲れてしまったようで、横になるとすぐに眠ってしまった。かわいらしいその寝顔を見て、ソフィアは淡く微笑みを浮かべる。 (「楽しんでくれたようで安心したけれど、ちょっと複雑な心境ね……やっぱり昔のコトを想うと、ね」)
忘れたくても忘れられない光景がソフィアの心に浮かぶ。 狂気に陥った貴種ヴァンパイア達に襲われ、完全に破壊されつくされた村。その中の、廃墟と成り果てた一軒の家。そこが初めてステラとあった場所だった。 幼い人狼の少女が一人ぼっちで死にかけていたのを見た時、ソフィアにはどうしても彼女をそのまま見殺しにすることはできなかった。ヴァンパイアにすることで、彼女の運命を変えてしまうとしても。 (「せめて、この子だけは……」) 幸い、月が美しい夜だった。吸血儀式を行う事ができる。ソフィアは、少女の首筋に牙を突き立てた。 (「――ん、我ながら物思いに耽ってしまったわ」) ソフィアが過去を思い出していた事など知らず、ステラがもそもそと寝返りをうった。いつもの通り、ソフィアの胸にほっぺたをのせ、枕代わりにして。どんな夢をみているのか、唇が笑みの形になっている。 「むにゃ〜」 眠りが浅いのか、寝ぼけているようだ。 幸せそうなステラの寝顔につられて、ソフィアも微笑みを浮かべた。 (「とにかく、私達は今の幸せを噛み締めながら、生きていく事にするわっ」) 起こってしまった不幸を消す事はできない。でも、これからを幸せにいろどる事はできるはず。 「むにゃむにゃ……お姉さまの胸はあたし専用なんだからぁ」 なんだか居心地よさそうに、ステラが呟いた。
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