●『舞踏会‐曲間の出来事‐』
クリスマスを彩るのは、何もクリスマスツリーだけではない。幻想的な明かりの灯るダンスホールで行われる舞踏会もまた、華として場を盛り上げる。数々のパートナー達が、穏やかな円舞曲に乗せてステップを踏む。 「去年はミサの手伝いで忙しくって、結局着損ねちゃったんけど……」 そらの着込んだ衣装は、ベアトップの赤いイブニングドレス。去年のパーティーには、市内の教会の、クリスマスミサの手伝いがあったせいで出られなかった。 「そうだったんだ。去年は準備には居たのに当日居ないからどうしたのかな、とは思ってたんだけど」 そう答えた來那の衣装は、高い身長に映える、薄いベージュのフロックコート。去年は一緒ではなかった。けれど、今年は一緒に来る事ができた。それもこれも、そらの提案のおかげだった。去年の失敗を踏まえ、今年はミサの準備を2人で手伝って、その分、舞踏会に間に合うように切り上げさせて貰ったのだ。勿論、準備の手は抜いていない。おかげで今……この舞踏会で、お互いにステップを踏んでいられる。 「1年越しになっちゃったけど、どう……かな?」 くるりとターンしながら、そらは彼に問いかける。去年のクリスマスは、まだこんな風に、恋人どうしになるとは思っていなかったけれど。でも今は、二人とも幸せをかみ締められている。 「うん、すごく似合ってるよ。僕の方こそ、似合ってるかどうか不安なんだよね」 彼女をささやかにリードしながら、來那もステップを踏む。自分の衣装を見直して、どうだろうかと、視線でそらに問いかけた。 「來那にはぴったりだと思うよ」 自信持って、とそらがささやく。そして、緩やかな調べに乗って、二人は微笑みあう。今は、この聖夜に誓って、愛していると言える人と共にいられる事が幸せで。お互いに、着込んだ衣装を褒め合って、笑い合う。曲も終盤、穏やかに音の波が引いていく。 「これからも、よろしく、ね?」 わずかに頬を染め、見上げるような形で彼の顔を覗き込むそら。曲の調子が終わりに近づく。彼女はそっと、瞳を閉じていった。 「勿論、僕の方こそよろしくね」 來那は彼女の肩を抱き寄せて、硝子細工を持つように、頬に触れる。気が付けば互いの体を抱き寄せている。やがて、ふっと音が消えた。人のざわめきが生まれるまでの静寂、曲と曲の間に生まれた、ほんの刹那の間。 どちらからともなく求めて、二人は、情熱的なキスを交わす。お互いを離さぬように。お互いを求めるように。どうかこの幸せが、明日も、来年も、いつまでも続きますようにと、祈りを捧げながら。
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