●『クリスマスも危険がハードボイルド』
ある国の重要人物であり、政財界にも名を響かせる名士のクリスマスパーティーともなれば、かなりの有名人達が参列する。そんな中に、白を基調としたパーティードレスに身を包んだ少女が参加していた。何故過去系かって? それは……。
チュイーン! 立ち並ぶ古い石造りの街並みの中を、一組の男女が駆け抜ける。その横を、一発の弾丸がかすっていった。 「もう、どうしてこうなっちゃうのよ……」 パーティードレスの少女……エマーヤは、銀色の拳銃片手に全力疾走しながら自問自答する。隣を走る、黒のコートにつばのついた同じく黒い帽子を被った銀髪の男……双麻も、帽子を押さえながら必死で走っていた。途中までは、途中までは上手くいっていたのだ。しかし気がついてみれば、屋外での銃撃戦とあいなっていた。 双麻とエマーヤは探偵だ。このパーティーで、とある事件に繋がる重要な証拠を手に入れられると聞いていたのだが、挙句の果てがこのザマだ。 「知らねえよ、俺の方がばれたわけじゃねえぞ!」 「原因はわかりませんが今はともかくっ……」 仲良く二人して言い争いをしている間も、何発もの弾丸が飛んでくる上、向こうさんはどんどん数が増えていく。包囲されるのも時間の問題だろう。間一髪、表通りに面する左右の路地に滑り込んだ。向かいの路地裏から双麻が表通りを覗き込む。1、2……ちょっと数えたくない人数のガードマンが、ライフルを構えて走ってくるのが見えた。急いで首を引っ込めた直後、今まで顔面のあった場所を、何十発もの弾丸が飛んでいく。 「はあ……」 エマーヤのため息が漏れる。不意に思い出したのは、今日この日が何の日だったかということ。そういえば今日は、クリスマスだった。友人達は今頃よろしくやっているだろうか。 「まあいい、蹴散らすまでさ」 体勢を整えていた双麻が立ち上がる。握られた拳銃は、鈍く光を照り返す。 「頼りにしてるわよ」 エマーヤも、自分の得物のグリップを握りなおした。 クリスマスだろうがなんだろうが、今夜も危険なハードボイルド。 「さて、こっからが本当の……」 「クリスマスパーティーよ」 号砲二発、二人が同時に放った鉛球が、ガードマン達を蹴散らしていく。こんなクリスマス、そうそうあるものじゃない。 (「フッ……やれやれだぜ」)
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