●『サンタさん捕まえた〜!』
真っ暗になったクリスマスイヴの夜遅く。由良はそっと足音を忍ばせて廊下を歩いていた。 ドアの手前で足を止めて、ゆっくりそれを押し開ける。その向こう側に目を凝らし、耳を澄ませて……よし。 「そぉっとそぉっと……」 由良が入っていくのは未来の部屋の中だ。プレゼントを持って、それを枕元へ置いていく為に。だって今夜はクリスマスイヴ、サンタクロースが姿を現す夜なのだから……。 (「……きました」) 壁の方を向いて寝ていた……フリをしていた未来は、侵入してくる気配に気付き、ゆっくりと目を開けた。そう、未来は最初から、寝てなどいなかったのだ。すべてサンタクロースの正体を暴く為の演技、作戦である。 その何者かは気配を隠そうとしているけれど、完全に気配を絶つには至っていない。一歩、また一歩と近付いてきた気配が、ベッドのすぐ傍へと辿り着いた時。 未来は素早く起き上がると、ベッドの脇に準備しておいた紐の束を掴んで一気に、その侵入者に襲い掛かった。手際よく紐を相手にかけて……。 「きゃっ」 「え」 ぎゅっと縛り上げた、その時。相手の口からこぼれた声に、未来は目を丸くする。 慌てて確かめるように電気をつけると、そこには由良の姿があった。 「あ……由良……」 「未来……! お、おはよう」 決まり悪そうに苦笑する由良。完全に縛り上げられてしまった由良はベッドの上に腰を下ろした格好のまま、もうぴくりとも動けない。 (「でも、こういうのも……なんて」) ちょっと恥ずかしそうに、でも嬉しげな笑みを浮かべる由良に不思議そうな視線を向けつつ、未来はどうしてこんな事をしようとしたのかを聞く。 「それはその、クリスマスイヴですから、プレゼントをと……」 サンタさんを真似て、と自分の衣装を示す由良。実際由良はサンタクロース風のコスチュームに身を包んでいる。 「それよりも未来ですよ。寝ていたんじゃ……?」 「フリです……サンタさんを捕まえようと思って……」 確かに捕まえることは捕まえた。……ちょっと未来の想定とは違ったというだけで。 「そうでしたか。ごめんなさい」 「いいです。……あ、解きますね」 ようやく彼女を縛り上げたままにしていた事に気付き、紐を解く未来。もうちょっとこのままでも良かったんですけどね……という言葉を由良は飲み込む。 「じゃあ、これ……プレゼントです」 「ありがとう、由良」 両手が自由になった由良が差し出したそれを、嬉しそうに未来が受け取ってくれて、それがまた由良には嬉しくて。
それからもうしばらく、2人は深夜の会話を楽しむのだった。
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