●『クリスマスも変わりない日々で』
すっかり太陽の落ちた町並みに、イルミネーションの光が波のように押して寄せる。十二月二十四日、クリスマス・イブ。どこからともなく賑々しい音楽が聞こえて来る市街地の中心、心なしか浮足立った人々が行き交う中で、デート帰りの二人は足を止めた。見上げた視線の先には、色とりどりの電飾を纏った大きなクリスマスツリーがそびえている。 「クリスマス! って感じがするのはいいんだけど……」 息を吹きかける手には、流行りのファーをあしらった手袋。息を白く凍らせながら、氷姫は呟いた。 「すっかり寒くなっちゃったね」 吹き抜けた冷たい風に身体をぶるっと一震いさせて、隣に立つ稜牙の肩に頭を預ける。恋人の瞳が見つめる先を追って、稜牙も光のツリーを見上げた。 月日が経つのは早いものだ。日々を夢中に駆け抜けてきたかと思えば、今年ももうあと一週間を残すのみ。ツリーのあちこちで暖かな灯を照り返すカラフルなアクリル玉を見上げれば、今年一年の思い出が、輝く球面に映っては消えて行く。 「ひゃっ!?」 そんな感慨に耽る氷姫を、突然、横から伸びてきた腕が抱き締めた。驚き、思わず声を上げた氷姫に、稜牙は悪戯っぽく微笑みかける。 「こうしてれば暖かいさ」 互いの鼓動を感じられるほど抱き寄せれば、十二月の寒さとてどうということはない。一瞬きょとんとした氷姫だったが、状況を自覚するなり、その頬にぱっと茜が差した。 「もう……」 ダッフルコートの襟に口元まで埋めて俯く氷姫。その赤髪に、稜牙の灰色の髪がふわりとかかる。 来年も、その次の年も、ずっとずっと一緒にいられたらいい。 寒空の下、同じ想いを胸にして、二人は身体を寄せ合う。 「稜牙……」 「うん?」 ぽつりと呼ぶ声に、稜牙は恋人の顔を覗き込んだ。見上げて来る漆黒の瞳がオレンジ色の灯りを照り返して、優しく穏やかに笑っている。 「今年一年、ありがとうね。それから――」 来年も、宜しくね。氷姫がみなまで言い終わらないうちに、稜牙は恋人を一層強く抱き込んだ。 二人を繋いだ白いマフラーが、ふわりと風に浮く。温かい気持ちが胸を満たして行けば、いつの間にか、寒さはほとんど気にならなくなっていた。 「行こうか」 促す稜牙の言葉に氷姫が頷き、二人は再び歩き出す。今この瞬間が永遠に、いつまでも続きますように――そんな願いを抱きながら。 幸せそうに寄り添う二人のシルエットは、光溢れる街の中へと消えて行った。
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