●『喧騒をはなれて』
白い雪が外の世界を彩り、クリスマスパーティもますます盛り上がる頃。 ふたりは、誰にも気付かれないように、そっと手を取り合い隣の部屋へと抜け出してきた。 部屋には大きな大きなツリーが、月明かりに照らされている。 「やっとふたりきりになれたね」 銃音が呟くと、姫乃の顔はみるみる赤くなる。 ずっと立っていたせいなのか、恋人とふたりきりになれ安心したせいなのか、体の力が一気に抜け、ふたりは同時にツリーの前へ座りこんだ。 しんしんと降る雪の冷たさが、この部屋にも伝わり姫乃は小さな肩を震わせる。 その小さな体を包むように、銃音が肩を抱いた。 「なんや、今日のかのくん……めちゃめちゃかっこいいやん」 「彼女が寒がっているなら温めてあげるのは男の役目だよ。それよりも……」 銃音は姫乃の瞳を見つめ、頬に触れる。 「姫ちゃんこそ、今日は一段と可愛いよ」 姫乃をまとう赤いパーティドレスに目が離せなくなり、思わずぎゅっと抱きしめる。
「……もう季節は冬なんやね。いっしょに過ごした臨海学校なんか、懐かしいな」 「あのときは、夏の暑いときだったもんね」 爽やかな日差しの中、一緒に走った思い出が鮮明によみがえる。 「あのとき、すごく楽しかったね」 「キスもしたしね」 少し照れながら話す姫乃に、銃音は口づけする。 「前も、今も、ずっとずっと一緒……やね」 季節が移り変わっても、変わらず傍にいられることが何よりも嬉しい。 「これからも、ずっと一緒だよ」 しばらく他愛もない話をしていると、姫乃の横から静かに寝息が聞こえてきた。 銃音が静かに眠りにつくのを、見つめる。 大きな腕に包まれて、恋人の顔を少し見上げる角度がなによりも大好き。 (「うちだけの、特等席……やね」) 銃音が起きないように、そっと頬に口づけをする姫乃。 「だいすきだよ、かのくん」 そう呟くと、肩を並べて瞳を閉じる。
幸せそうなふたりを月明かりがやさしく照らし続けていた。
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