●『今年は部屋でノンビリ』
クリスマスという特別な日に、多くの男女が想い人との一時を過ごしていた。婚約者同士の華蓮と裕也もその一組である。 二人は昼間にデートを楽しみ、日が暮れた頃には家に帰ってきた。外の店でディナーにするよりも、今年は部屋でのんびりする事を選んだのである。 裕也が飲み物の入った袋を手に提げ、華蓮がショートケーキ入りの箱を持っていた。 「寒かったな?」 「……うん、寒かったね」 そう話しながら、部屋の奥まで移動してコタツの電源を付ける。 華蓮と裕也は二人だけのささやかなパーティの準備を始めた。用意を済ませると、暖まる途中でまだ少しひんやりとしたコタツへ一緒に入る。 裕也が華蓮に訊く。 「寒くないか?」 「ん、大丈夫よ」 二人で寄り添って温め合えば、いつまでもそうしていたいと思える程に温かい。コタツが暖まる前から、温かな時間は流れていた。 華蓮がコタツの上に置いていたケーキを広げ、裕也がコップにオレンジジュースを注ぐ。 クリスマスプレゼントの準備も忘れていなかった。二人が同じタイミングでコタツの上に置く。 「お……」 「あ……」 二人は、息が合っているからこそ巡り合った。それを実感するように微笑み、コップを手にする。 コタツが程好く暖まってきて、二人の気持ちも良い感じに高揚して……。 「「メリークリスマス」」 今日この日に囁く言葉は、打ち合わせや合図も無く同時に紡がれた。 裕也が華蓮の肩を抱き寄せて、華蓮が裕也の肩に頭を乗せる。 「乾杯しよう」 「ああ」 華蓮に促された裕也がコップを合わせると、静かな音が室内を満たした。クリスマスツリーに飾られた淡いライトの光が、祝福するように二人を照らしている。 ケーキを摘むよりもジュースを口にするよりも、その時間が何よりかもしれない。 忘れている物があることに気づき、裕也が言い出すのを惜しく思う。 「……ケーキナイフとフォークはどこ?」 華蓮は気を利かせて、少し意地悪っぽく訊いた。 裕也がちょっと苦笑いする。 「……忘れてた」 そんな遣り取りも、二人にとっては心地良く感じられるものとなっている。 華蓮も名残惜しそうに、取りに行く裕也を見送った。用意ができれば切り分けて、今後こそケーキを摘んでいく。 華蓮は裕也の頬に付いていたクリームを指で取った。クリームを舐め取る彼女に、照れた裕也が思わず半分残っていたジュースを飲み干す。 その遣り取りは、親密な関係の二人だからこそ。二人の様子も極上の甘さ。 他愛も無い話をしながら、二人がふと心の中で思った。 (「来年も一緒に……」) (「またこうして……」) 裕也と華蓮は見つめ合い、何かを感じ取ったように無言で微笑む。 華蓮が身を預けて、裕也が身を任せてもらって、ゆっくりと近づく二人の顔。二人の口が重なり合い、唇の温もりが伝わる。 お互いにその存在と想いを確かめ合う、穏やかなキスだった。
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