●『らぶらぶお風呂タイム』
「ふぅ、良い湯だな……」 誰もいない露店風呂に浸かりながら、響は満天の星を見上げた。 今宵は聖夜。贅沢にも露天風呂を貸し切って、恋人とのんびり湯船に浸かりながら語らうというのもありだろう。 ――ガラガラ。 「あ、響さんもう入ってるにゅー?」 脱衣所からバスタオルを巻いた恋人――にょろが姿を現した。手には髭眼鏡をつけたアザラシの人形――ドニョロを抱いている。 最初は一緒に着替えるんだ、と言って駄々をこねた可愛い恋人を無理矢理言い聞かせて脱衣所で別れたのだ。 それで、先に脱衣所を出た響は、身体を洗って湯船に浸かっていたところである。 「ああ、なかなか良い湯だぞ。にょろも早く入るといい」 「うん、分かったー♪」 にょろは明るく返事をすると、なにやら準備運動を始めた。 「まさか……」 嫌な予感がした響は、急いで逃げようとするも、 「とりゃあ!」 ――ザバーン! 逃げようにも時既に遅し。響は豪快に飛び込んできた恋人を受け止める形となる。 当然、盛大に上がる水飛沫。 他に客がいたら大顰蹙ものだ。貸し切りだからいいのだが。 「えへへー♪」 見事に頭からお湯を被って、前髪からお湯を滴らせるにょろが笑う。 「いや、にょろ……ちょっとハメを外しすぎ……いや、いいか」 響は苦笑して、飛び込んできた恋人を自分の膝の上に座らせた。 「それにしても、随分髪が伸びたな」 湯の表面に漂う長い黒髪の一房を持ち上げ呟く。 去年のクリスマスから伸ばして、今では背の中程に届くまで伸びていた。 「んー、だってー」 響の指で髪を梳かれて、にょろは上機嫌な声で、 「響さん、前に長い黒髪が好きって言ってたにゅー♪」 にこにこ嬉しそうに笑う。 (「俺の為にわざわざ髪を伸ばしてくれたのか……」) 「そうか。うん、似合っているぞ」 響も嬉しそうに微笑んで、にょろの髪を優しく梳いた。 「えへー♪」 寒いクリスマスの夜。けれど二人は、身体は勿論、心も、ゆっくり時間をかけて温まった。
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