律秘・灰 & 桂木・司狼

●『雪の降る中、冬桜を見に』

 冬に咲く桜があるのだそうだ。
 夜になるとライトアップされると聞いて、司狼と灰の二人は冬桜の名所と言われる公園へやってきた。折しも、その日はクリスマスイブ。気温は低くちらちらと雪が舞っているが、公園は人で賑わっていた。
「ねぇねぇ、アレだよね!」
 冬桜を見つけ、灰ははしゃいだ声を上げた。早く早く、と灰に袖を引かれ、遅れて歩いていた司狼は少し足を速める。
「わぁ、すごい……! なんて綺麗……!!」
 道沿いに幹を連ね、咲き誇る冬桜。ライトアップされた白い花が暗い夜空に映え、幻想的な雰囲気を醸し出していた。ふわりふわりと落ちてくるのは雪の欠片。不規則な動きで、花弁と共に夜空を彩っている。
「すごく幻想的……」
 灰はうっとりと桜を見上げた。司狼は静かに頷く。
「あたたかな春の桜と違って、凛としたたたずまいを感じるな」
 冬桜を見るのは初めてだ。寒いこの季節に桜がどんな表情を見せるのか、司狼はとても楽しみにしていた。その場に佇み、無言で桜を眺める。
 一方の灰は、終始笑顔ではしゃいでいた。舞い降りる雪を手のひらに受け、くるくると回る。桜色のツインテールが、花弁と共に舞う。
「なんか夢の中にいるみたい、だね」
 熱に浮かされたように呟く。司狼はそんな灰の様子にわずかに微笑み、再び桜を見上げた。桜の向こう側に浮かぶ上限の月と、頬をかすめて飛ぶ花弁。凍るような空気の中、まるで異世界の風景のようにも感じられる。
 桜並木を、灰は踊るような足取りで、司狼はゆっくりと歩いていく。桜が途切れると、灰は夢から覚めたようにほうっと息をついた。
「終わっちゃった……とっても素敵だったね!」
「ああ」
「素敵な場所と時間を、今日は本当にありがとう」
「喜んでもらえたなら幸いだ」
 桜並木の先には、クリスマスツリーが見えた。時期外れの桜に惑わされたが、そう言えば今日はクリスマスイブ。
「メリークリスマスだよ、来年もよろしくねー」
「……メリークリスマス。こちらこそ、来年もよろしく頼む」
 季節にふさわしい挨拶を終え、灰は再び桜並木に目をやる。
「ここからバスに乗るという手もあるけど……それよりはもう一度、桜を見ながら帰ろうか!」
 空気は冷たく、もう頬も指先も冷え切っている。
 でも、冬桜に酔いしれるこのひとときには代えがたい。
 灰の提案に、司狼はくすりと笑って頷いた。



イラストレーター名:mic