●『幻灯街路』
薄闇を、ぽつ、ぽつと、一定間隔を保って暖かい色の街灯が照らしている。 街灯が照らす道は敷石の造りで、自転車や車は通らない。 まして、店も閉まるような……深夜に差し掛かった頃である。 通行人もほとんど見受けられなかった。ただ、遠くから楽しそうな声が漏れ聞こえてくる。 静かだが、寂しいとは違う、そんな道だ。 御神深月と遠咲奏は、その道を並んで歩いていた。 クリスマスに二人で出かけた帰り道。賑やかというわけではなかったが、互いの顔を見つめながらの談笑。 奏の言葉に深月が頷き、応じる。奏はそれで充分楽しく、それは深月も同じだった。彼はあまり喋る方ではないのだ。 並んだ腕は触れ合うほどに近く、でも、触れていない。 それに気付いた奏が唐突に足を止める。 「……奏?」 訝しげに振り返った深月。 少しの逡巡をして奏は顔をあげる。その頬が、街灯の下の薄闇で解るほどに赤い。 「あの……団長。腕を組んでも、よろしいでしょうか」 要求と口調があまりに合わなくて、それがほんの少し、深月の悪戯心を刺激した。 とぼけたように聞き返す。 「あぁ、歩くのが早かったか?」 「いえ……そうじゃなく」 自分の心の内を知られているのかそうではないのか、どちらにしても、なけなしの気力を振り絞ったお願いの返答がこれでは、少々心がくじける。 俯いた奏に、さらに声が掛かる。 「いいよ」 弾かれたように奏が顔をあげる。 微笑と一緒に差し出された深月の腕に、奏は嬉しそうに駆け寄って自分の腕を絡めた。 冬の夜道はコートやマフラーをつけていても寒かったが、隣を歩く人の体温がいっそう感じられて嬉しい。 奏は嬉しそうな顔を尚輝かせて、中断した話を再開した。 「それでね、深月……あ」 思わず気軽になってしまい、一瞬で奏の表情が変わる。 喜びから、戸惑い、羞恥……いっそ悲しそうな顔にまで。 顔を見て話をしていたものだから、奏の百面相に深月はとうとう堪えきれずに噴出した。 「ご、ごめんなさい! 私ったら……!」 「それも、いいよ」 あわてて謝罪する彼女へ、奏は優しく言う。 「え?」 「いいよ、奏。……それで? 何があったんだ?」 優しく促す深月に、奏もまた優しく笑う。 二人は急がなかった。 幸せな時間を踏みしめながら、街灯の灯る冬の街を、ゆっくりと歩いて帰った。
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