●『街角のリア充 〜ですが爆発はしません〜』
今年のクリスマスは出張駄菓子屋として出店をしていた優は、徐々に静まりつつあるクリスマスパーティーの余韻を感じつつ、傍らに居る馨と共に撤収作業に勤しんでいた。 「なんか手伝って貰っちゃってごめんねー。稼ぎ時だから外せなかったんだ」 飛び交う小銭と駄菓子の嵐を思い出しながら、馨との時間が作れなかった事を謝る優。だが馨はそんな事は全く気にしていない風に、 「ん、構わないよ。俺が優の傍に居たくて手伝っただけだし」 と言って優に微笑み、手伝いを続ける。 優はその笑みに小さく礼を返すと自分も片付けに勤しむ。二人のクリスマスはまだまだ終わってないのだから。
他愛ない会話をしつつ、片付けも大方終了したころ、一息ついている優を尻目に馨は行動を開始する。片付けの荷物の中にコッソリ忍ばせておいた大きな袋を手に取ると、優の様子を見ながらバレないようにその中身を取り出し、自分の背中に隠す。ここが正念場だ。 ゆっくりと優に近づいた馨は、空いている左手で優の肩をつつく。 「優」 「なに馨ちゃ……」 振り向きざまの優に差し出されたのは、大きな薔薇の花束だった。優には突然薔薇の花畑が広がって見えたに違いない。それが自分へのプレゼントなのだと言う事は理解できていたが、片づけが終わった後は馨ちゃんとゆっくり過ごすぞーっ、などとのほほんと考えていた優にとって、このサプライズには実に唐突だった。 薔薇と言えば……愛・美・嫉妬・あなたを尊敬します ・愛情・美・温かい心・照り映える容色・私はあなたにふさわしい・内気な恥ずかしさ・恋。 どっかで聞きかじったような花言葉が優の思考の片隅を猛スピードで駆け抜ける一方、「きゃっ、なにあれ薔薇? すごーい!」「うわー薔薇だよ。しかも花束!」「ステキー!」などの外野の野次も猛烈な勢いで優の思考を塗りつぶした。 優は思う。 すごく嬉しい。嬉しい。しかし恥ずかしい。でも嬉しい。でも人前だ。恥ずかしい。 思考のループで彷徨う優に、馨は見るもの全てを蕩けさせるような微笑を浮かべ、 「メリークリスマス!」 この瞬間、優の中で『嬉しい<恥ずかしい』となり、それは直ぐに行動へと変換される。 照れ隠しという名の渾身の右ストレートが、馨のニヤけ顔に炸裂した。 馨は微動だにせず、食らうのが義務と言わんばかりの食らいっぷりでノックアウト。彼女の屈折した愛情表現を理解している者にしかできない役得である。 「ば、場所考えてよ!!」 顔を真っ赤にして照れる優に、馨は「ごめんね」とあやまる。 だが馨の気持ちは嬉しかった優は、やがて小さくさえずるように言った。 「……ありがとう」 そのささやかな感謝の言葉を聞き、馨は思う。 あぁ、幸せだな、と。
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