●『君と過ごす聖なる一夜』
年に一度訪れる、クリスマスの夜。 幾つもの想いに街が賑やかに彩られる中、二人が待ち合わせたのは街角にあるレストランだ。
先にエントランスに着いてたのは龍だった。 龍がほんの少し着慣れない服装を気にする間もなく、すぐ後方で扉の開く音がした。次いですまない、と聞き慣れた声がして、龍はゆっくりを振り返る。 「待たせたか?」 そこには、青いパーティドレスに身を包んだスペルヴィアの姿があった。 さらりとした灰色の長い髪を携え、シンプルな青のドレスを纏った彼女は凛としていて魅力的に見える。 そんな彼女を前にして、龍は待ってはいない、と小さく首を振った。 が、そのまま何故か何も言わない龍に、スペルヴィアはついに耐えきれなくなったらしい。 「……似合うか?」 そう問いかけた頬は朱に染まっている。 真っ直ぐに自分に注がれる灰色の瞳の視線がどこか気恥ずかしくて、それを受けているスペルヴィアの紫眼が居場所を求めてさまよう。 一方問われた方の龍は、少しの間を空けてからやっと口を開いた。 「あぁ、当然」 薄く笑う龍の表情は穏やかだ。どんな彼女でも美しいに決まっている。 ……ただ、少しだけ見惚れていただけなどとは言わなかったが。 「なら、良い」 言うなり、早足で歩き出したスペルヴィアの頬の温度はまだ下がりそうに無かった。
やがて二人は、紅いテーブルクロスが敷かれたテーブル席に着いた。 クリスマスという事もあり、彼らの席にもそれに相応しく飾り付けがなされていた。 「お、外も綺麗だな」 何気なく窓の外を見遣った龍が呟くと、スペルヴィアも自然とそれに倣った。 街灯や木々を青や白のイルミネーションが着飾り、行き交う人々の笑顔を引き立てる。 純粋に綺麗であると同時に、見ているだけで和やかな気持ちになる。 「そうだな。……少し冷えるが、雪でも降るのだろうか」 雪でも降れば、また風情があって良い。 そんな何気ない会話を幾つか紡いだ頃、龍は運ばれてきたグラスを軽く傾けて見せた。 「あー……、んじゃ乾杯でもするか?」 「ん、そうだな」 言葉と共に、お互いが持つグラスも吸い寄せられるように重なる。 「乾杯」 二人の間で弾けた音は、高く澄んでいた。 そしてそれは二人にだけ届いているかのように、耳に響き渡る。 目の前にある瞳が、随分と近くにあるように感じられた。 着飾った相手の姿も、自分の姿もどこかいつもと違って目に映る。 いつも――普段であれば龍もスペルヴィアも授業に試験にと学生として多忙な日々を送っている。また能力者としても戦いに明け暮れる日々。 だが今は、違った。 同級生でも、共に戦う仲間でもない。 ……今宵はただ、二人の恋人として。 同じ時を、今こうして大事な人と共に過ごしている。 時折交わる視線に、微笑んだ表情に、言いようのない幸福を得る。
二人の夜はこうして始まり、続いていく。 聖なる一夜に、メリークリスマス。
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