●『ふたりで紡ぐ雪の日の幸せな物語』
昨夜から降り積もった雪が、見馴れた町並みを美しい銀世界へと変えていた。 柔らかな新雪が、冬の淡い陽の光りを受けて、キラキラと輝いている。 街路樹の葉に積もった雪が、風に揺れてパラパラと白い粉を散らしている。 凍て付くような寒さではあるが、晴れ晴れとした気持ちにさせてくれる光景が広がっていた。 貴慧と零は、以前零が話していた雪遊びの事を思い出し、二人で町外れの小さな公園へと足を運んだ。 その公園は、人が踏み込んだ痕跡も無く、真っ新な雪で覆われていた。 「やっぱり俺達が一番乗りや」 零は、子供の様にはしゃぎながら新雪の中を走り出した。 その無邪気な姿を見詰めながら、貴慧は顔を緩める。 二人で過ごす、初めてのクリスマスだ。 貴慧は、頭をフル回転させて、零との様々なシチュエーションを心に描きつつ、顔を綻ばせた。 「うはっ、ヤバイよ俺……まいったなぁ」 すると、貴慧の緩んだ顔面に冷たい雪の玉が当たる。 奇声を上げながら、冷たい雪を顔面から払い除けると、更に冷ややかな視線を自分に向ける零の姿が目前にあった。 「貴慧、今何か変な事考えてたやろ」 「ご、誤解……じゃ、ないけど、誤解だっ!」 「何言ってるんや? 変な貴慧。なぁ、雪で何か作れるやろか」 零は足元の雪を掻き集め始めた。 頬をピンク色に染めて、真剣に雪遊びをする零の姿に見惚れながら、貴慧も雪を固め始める。 悶々としながら作った雪の創作物は、何故だか零に似ている。と、言うより、今の貴慧にとっては、公園の石ころでも零に見えてしまう状態にいるのだ。 「できたよ。兎に見えるやろか?」 器用に作られた雪兎を手に、零は満面の笑顔で貴慧の元へ駆け寄る。 その姿も、実に愛らしく貴慧の瞳の中で輝いた。 「すごく……いい! 最高だ、零」 零は貴慧の前にしゃがんで掌の雪兎を見せた。 「褒め過ぎやろ。……で、それ何や?」 じっと貴慧の手元にある何だか解らない雪の塊を見据えた。 貴慧は照れ臭そうに笑って、その創作物をくしゃりと手で潰す。 「なぁ貴慧、どうして今日は上の空なん? 雪遊びは楽しくないんやろか?」 心配そうに、零は貴慧の顔を覗き込んだ。 「そ、そんな事はないよ。俺は」 しかし、貴慧の話の途中で、零は寂しそうな表情を浮かべて立ち上がった。 その時である。突然の強風が吹き起こり、公園の雪を舞い上げて零の背中を押した。 貴慧は腕を零の背中に回して、冷たい風から守る様に抱き締める。 「こうしていれば暖かいから……」 背中から貴慧の温もりが伝わってくる。 「貴慧……、俺の事好きなん? 一緒の時は、俺の事だけ考えてや」 「もちろんだ。本当にお前は可愛いよ」 安心できる腕の中、零は穏かに微笑む。 「俺もや」 二人の間に、もう言葉は要らない。 熱い視線を交わし、どちらとも無く唇を重ね合った。
『メリークリスマス』
お互いの距離が、一層縮まったと感じる一時だった。
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