●『私たちの使役ライフ!〜クリスマス編〜』
(「ここがこうで……こっちがこうなって……」) 大きなクリスマスリースが可愛く飾られた部屋、悠は2本の細い棒を必死に操っていた。 2本の細い棒からは、それぞれ赤い毛糸が伸びており、その先にはその毛糸でできた服のような何か。 この時期、女の子が毛糸と細い棒で何かを作るといえば――そう、編み物。 料理でも衣服でも、手作りというのは市販品を買うよりも、ずっと手間と時間がかかる。それ故に、思いも愛情も沢山詰め込む事ができる。 悠は元々手先が器用とは言い難い。それでも一生懸命編み物に果敢に立ち向かう。大切なパートナーの為に。 「がぅ♪」 悠のスカートを軽く引っ張ってみる真ケルベロスベビーのアルファ。 「……」 手元に集中していて、全くこちらを見てくれない。何度かスカートを引っ張ってみたが、 「ごめんね、ちょっと大人しくしててくれるかな。手が放せないんだ」 必死に何かをしていて自分と遊んでくれない悠。 「がぅ!」 こいつが悠を取ったんだ。そう思ったアルファは、目の前にある、偶に動く赤くて丸いものに飛び掛った。 「がぅ?」 この丸いのは柔らかくて、コロコロ動いて、ちょっと面白いかもしれない。敵だと思ったが、これは面白い。 すっかり毛玉にじゃれつくのに夢中になってしまったアルファ。 「……がぅ? ……ぐぅ……がぅ! ……がぅぅ……きゅぅ……」 「?」 切ないような、困っているようなアルファの声に悠が振り返ると、アルファが毛糸に絡まって動けなくなっていた。 「……がぅ」 顔にも毛糸を絡みつかせながら、うるうるした瞳で切なく助けを求めている。 「何してるの、キミはー?!」 悠は驚いて叫んでしまった。 慌ててアルファに絡まった毛糸を解いてやり、 「もうちょっと……いい子だから、もうちょっと待っててくれる? ね?」 申し訳なさそうな表情を浮かべながら、アルファの頭を優しく撫でた。 「がぅ」 絡まった毛糸を解いてくれて、優しく撫でてくれる悠の手に嬉しくなる。アルファはその後、悠の邪魔もせずに大人しく待つことにした。悠は嘘を吐かないから。待っていれば、絶対遊んでくれる。
大人しくなったアルファに、編み物に集中することができた悠。 「できたー!」 やり遂げた顔の悠の前には、小さな赤いサンタ服と赤いニット帽。 「がぅ?」 『遊んでくれる?』と言わんばかりにアルファの瞳は輝いていた。大人しく待っていたのだから、御褒美に悠は遊んでくれるのだと瞳を輝かせて。 「プレゼントだよ、アル♪」 悠が出来上がったばかりの小さなサンタ服とニット帽をアルファに着せてやり、 「アル、メリークリスマス♪」 「がぅ♪」 にっこり話しかけると、アルファは尻尾を振りながら嬉しそうに返事をした。
沢山の『ありがとう』と『これからもよろしく』を編みこんだ服と帽子は、悠とアルファを繋ぐ絆のようにアルファを温めた。
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