●『華やかな光、繋がる手』
恋人達のメインイベントといえばなんだろう。12月に限定すればそれは……クリスマスの夜の逢瀬だろう。クリスマスは、恋人らしいことをしようと考え始めた二人の、良いきっかけになった。発案は美晃の方から。この時期は街の雰囲気も変わると聞き、慎を誘ってきたのである。 (「プレゼントは贈ったが、こういう場所に来るの初めてだな」) 黒のコートに黒のマフラーに漆黒の髪。普段なら宵闇に溶けて消える色も、細雪の舞い散る夜には、少しだけ目だっているようにも見えた。一歩先を歩く美晃も似たような格好だが、そのマフラーは降り注ぐ雪と同じ色。似ているようでほんの少しずつ違う二人の姿を、雪明りが照らす。 そろそろクリスマスツリーが見える辺りに差し掛かった。ここから見える範囲のイルミネーションだけでも、きらきらと明るく周囲を照らし、今日この日を祝福していた。表通りには、それを見ようとする人達で溢れ返っている。 「思った以上に華やかなんだな……」 「……予想はしていたが、実際近くまで来ると凄い灯りだ」 美晃の感嘆のため息は、白くなってやがて消える。その横で、慎はぴたりと足を止めた。何事かと振り返る美晃に対して、慎は特になんの反応も返していない……ように見える。けれど、どこか浮かない顔をしているようにも見えた。 「どうした? 人酔いでもしたか……?」 「いや、そういうわけじゃ、ない」 けれど、美晃はそれとなく、慎に一歩近づく。慎は、あまり人の多い場所や明るい場所は得意ではなかった。けれど。 「せっかく来たんだ、今日は楽しんで行こう?」 美晃がそっと、手袋に包まれた手を差し出した。慎にも、彼女が何をしたいのかくらいはわかる。ほんの少し、ただの他人から見ればわからない程度に、彼の緊張が緩んだ。 「……そうだな、ここまで来たんだ。行こうか」 慎はそっと、差し出された彼女の手を握り返す。そういえば、手を繋ぐのはこれが初めてだったかもしれないと、慎は気づく。握り返した手は、手袋を通してでもなお、暖かく。 (「暖かいものだな。人の手というのは」) 握り返してくれた手を離さぬよう、しっかりと握り締め美晃は歩き出す。その後に、慎も続いた。ふと周囲を見回せば、そこかしこに行き交うカップル達が目に付く。各々がすきなように手を繋いだり、腕を組んだりしていた。その中に自分達がいる……そう考えると、少し照れた。 「想像出来ないよな、今までの俺達からはこんな光景。今日は周りの色に染まるのもいいかも知れないな」 そんな事を言いながら、更にぎゅっと、握る手に力を入れる美晃。照れたような微笑に、慎の心もほぐれていく。 「ああ……そうだな。たまには、染まってみるのもいいか」 慎は無意識に、マフラーで口元を隠す。その下では、僅かに、唇の端が緩んでいた。 二人のクリスマスはまだまだこれからだ。さし当たって……まずは、この煌く明かりの中に、二人で歩き出した。
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