●『べたべたに甘いのがよいのですよ!』
「おいしいね」 晴明はにこにことチョコレートケーキをほおばりながら、静夢に話し掛けた。 クリスマス用の装飾に飾られた暖かい部屋。ふかふかのソファー。甘くておいしいケーキ。 2人はお揃いのサンタの衣装に身を包み、今日のこのクリスマスを一緒に祝っていた。 「静夢ちゃんも食べる?」 幸せを具現化したような笑顔のままで、晴明は問い掛けた。彼女が食べているショートケーキもおいしそうだが、自分の食べているこのチョコレートケーキも食べてもらいたい。 いつも一緒の2人は、何だって分け合ってきた。幸せも、時には辛い事も。そしてケーキだって。 「たべるです!」 元気に答える静夢に、「あーん」とケーキを差し出す晴明。素直に大きな口をあけてもぐもぐと食べる静夢。 「晴明くんもわたしのショートケーキをたべるのですよ! あーんをするのです!」 静夢はお返しに、晴明にケーキを食べさせようとする。が、手元が狂ってしまい、晴明の頬にクリームがついてしまった。 晴明は気にする風でもなく、「じゃ、次は僕の番。はい、あーん」と、再び自身のケーキを差し出す。しかし、静夢は獲物を狙う猫のようにある一点を見つめている。 「ん……? 静夢ちゃん、どうしたの?」 疑問に思った晴明はケーキを運ぶ手を止め、尋ねる。 「そのまま……動かないでほしいのです」 相変わらず視線は固定させたまま、問いには答えずに答えるや否や、静夢は晴明の頬についたクリームをキスで取ってしまった。 「ん……」 不意打ちに一瞬呆気に取られた晴明だが、頬が感じた柔らかな感触の意味を理解して、顔を桃色に染める。 「もう……」 未だに頬に残る柔らかく甘い感触に、徐々に恥ずかしさが増し、顔を真っ赤にしながら少し拗ねたように言う晴明だが、表情は嬉しそうににこりと微笑んでいた。
いつも無邪気で、時々大胆な静夢に、真面目な晴明はその都度翻弄されてしまうけど、それが心の底から楽しい。 2人はこれからも、甘く甘い時の中で、少しずつ大人になっていくのだろう。 2人一緒に。 いつまでも仲良く。
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