小此木・平治 & エヴィーティール・ロブスター

●『クリスマスにラーメンを』

 煌びやかな電飾で飾られた街は、音楽と人で賑わっていた。
 その繁華街を通り、駅へと向かう平治の姿があった。
「何だ? 今日はやけに人が多いんだな」
 所用で着ていた高校生冬服が、陽気な街の雰囲気に不釣合いではあるが、当人はあまり気にしては居ない様だ。
 店先で売られているローストチキンの香りが、路上に漂ってくる。
 いくら呑気な平治でも、こればかりは無視する事はできない。
 空腹にお腹を擦りながら歩いていると、前方から大きなロブスターが向かってくるのが見えた。
「ヤバイよ俺、腹減り過ぎて幻覚が……て、あれエヴィだよな?」
 よく見ると、それは海老の着ぐるみを着たエヴィーティールだった。
 着ぐるみを気にする事無く、平治は急いで駆け寄る。
「おーいエヴィ!  晩飯一緒に食べようぜ、すぐに!」
 突然の誘いに、少し驚いた様子のエヴィーティールではあったが、美味い海鮮ラーメン屋台の話を聞き、平治について行く事にした。
 駅裏へと続く脇道に入った所に、その屋台はあった。
 のれんを潜ると、元気なたこ頭の店主が笑顔で迎えてくれた。
「おやっさん、海鮮ラーメン二つ! 急ぎで頼むぜ」
 平治は座ると同時に注文する。
「おう、坊主、今日は可愛い海老の彼女と一緒だな」
 平治と気さくな会話を続けながら、店主は手際よくラーメンを盛り付けていく。
「ホラよ、海鮮ラーメン、二丁上がりだ」
 トントンと二人の前に出されたラーメンからは、ふんだんに乗せられた海の幸がスープに溶けて豊かな匂いを立ち上らせていた。
 早速箸を手に取り、二人は口へと運ぶ。
「美味い!」
「美味しいわ」
 店主は二人の言葉に、満足気な表情を返した。
 屋台の天井に掛けられた裸電球の光りを受けて、店主のたこ頭がピカリと光る。
 ──そういえばパパもあんな風に剥げてたわね……。
 麺を啜りながらエヴィーティールは、故郷を想い起こしてしゅんとなる。
 平治は口数の少なくなった彼女を気にして振り向くと、寂し気な表情で頬にナルトを貼り付けたエヴィーティールの横顔があった。
 平治はクスリと笑みを漏らして声を掛ける。
「おーいエヴィ、ほっぺにおかず付いてっぞ」
 指先でそのナルトを取り除き、ひょいと自分の口へ放り込んだ。
「な?! うぐぐぐぐ……ナルトをほっぺなんて普通ありえないし……」
 恥ずかしさのあまり、顔を顰めるエヴィーティールではあったが、自分に向けられた平治の優しい笑顔につられて顔を緩めた。
「ま、ラーメンなんだし、これくらいお行儀悪くはないわよね」
「そうそう、楽しく食べるのが、食い物屋台のマナーだぜ。おやっさん、おかわり!」
「よぉし、坊主! 今日はクリスマスだ。たくさん食ってけ!」
 店主の言葉に、二人は一瞬身体の動きを止める。

『クリスマス──っ!!』

 今日が何の日かをすっかり忘れていた二人は、互いに見合って笑い出した。
 そして二人のクリスマスは、呑気に更けていくのだった。



イラストレーター名:中谷サリー