●『二人のためのクリスマス』
煌くイルミネーション。そこかしこから流れるクリスマスソング。光と音の洪水。そして、溢れる幸せな笑顔。 今宵はクリスマスイブ。聖なる夜。 大きくて、星を散りばめたようなドレスを纏ったクリスマスツリー。この時期、街で一番目立つ目印。 そこに、滅月が人待ち顔で立っていた。中肉中背に黒いロングコート、これだけの人波では飲み込まれて見失ってしまいそうであるが――、 「きゃ〜ん♪ めっちー♪」 滅月を見つけて、寧ろ、最初から滅月しか目に入っていなかった舞が、髪の赤いリボンを揺らして、スカートの裾をふわふわとはためかせて、元気いっぱいに飛び込んでくる。 舞の声にそちらを向き、両手を広げて待ち構え、優しく、しっかり受け止める滅月。 これだけのたくさんの人の中で、見失ってしまうとか、迷ってしまうとか、二人にそんな心配は無用のものだった。 「めっちー、会えて嬉しいの〜♪」 とびきりの笑顔で、真っ直ぐに愛情を言葉に乗せる舞。 せっかくのクリスマスなのだ、愛しい滅月と、どんなに過ごしたかったか。どんなに会いたかったか。そして、会えて一緒に過ごせる事がどんなに嬉しいか。その全てを一言に込めて。 「俺もだ、メリークリスマス、舞ちゃん」 溢れる想いごと腕に受け止めた舞を真っ直ぐ見つめて、優しく微笑む滅月。 見つめ合う二人の耳には、賑やかなクリスマスソングも、楽しげな人々の声も、一切届かない。 ツリーのイルミネーションも遠く見える程、お互いが強く輝いて見えて。 視線は絡み合い、静かに唇を重ね合う。 名残惜しそうに唇は離れていくが、視線は交差したまま。 「メリークリスマス♪ めっちー♪」 にこっと最高の笑顔を浮かべる舞に、滅月は一瞬だけ面食らったように瞳を見開く。 (「天使……だな」) すぐに優しい微笑みを広げて、 「何処に行こうか?」 優しく問いかけると、舞は、ぎゅっと滅月の腕に自分の腕を絡めて、 「まいちゃんね、めっちーと一緒なら何処でもいい♪」 天使の如く愛らしく微笑んだ。
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