●『聖夜の二人』
「はぁ……せっかくのクリスマスイブだが……しょうがないか」 ツカサは1人で部屋にいた。 一緒に過ごしたかった恋人の神威は、どうしても避けられない用事とかで、遠出している。近くにいれば、その用事が終わった後に、この聖なる夜を共に過ごせたかもしれないが、遠出しているのではそれも無理だ。 夜も更けて、窓から見えるイルミネーションが美しく煌きだす。ツカサはそんな景色をぼんやりと眺めた。 「一緒に見たかったな……」 年上である自分が子供のような我侭で神威を困らせる事など出来る筈もなく。 ――TRRRR……。 ふいに鳴り響く携帯電話。ディスプレイに出ている名前は……、 「神威?」 『すぐに出たな。何だ? 暇だったのか?』 聞き慣れた――今一番聞きたかった声が、おかしそうに笑みを含んだ言葉が耳に届いた。 「そりゃ、せっかくのクリスマスイブなのに、1人なんだから暇だろう」 何を当然の事を、と言わんばかりの口調だが、携帯電話を持つツカサの顔は嬉しさに、自然と笑顔が浮かぶ。 「用事とやらは終わったのか?」 今夜会う事のできない理由。元凶。 『あぁ。さっき終わったところだ。すまないな』 電話の向こうで申し訳なさそうにする神威の顔が目に浮かんで、 「気にするなよ。それで、どうだったんだ?」 苦笑を浮かべながら、ここは年上として大人の余裕を見せておくことにした。 『それがな……』 神威は勢いよく、楽しそうに喋り出した。普段は落ち着いているが、こういうところは年相応の女の子なのだと微笑ましくて、ツカサの顔が自然と綻ぶ。 今日会えない分、色々な事を聞こう。色々な事を話そう。今の時代、遠く離れていても、声と言葉を伝えてくれる文明の利器があるのだ。 「もうこんな時間だ。名残惜しいがそろそろ寝ないとな」 苦笑混じりのツカサの声が神威に届くと、 『そうだな。このままだと日付が変わってしまうし……』 明らかに神威の声が寂しそうなものに変わる。 「ああ、言い忘れた」 『ん?』 「メリークリスマス、神威。愛してるぞ」 『……〜〜〜〜っ!』 神威はきょとんと、目を数回ぱちぱち瞬かせた後、顔を真っ赤にして、悶え恥ずかしがった。 ツカサからは実際に見えなくとも、神威が顔を真っ赤にして恥ずかしがっている姿が容易に目に浮かんだ。 一頻り恥ずかしがった後、こほん、と軽く咳払いをして、 『メリークリスマス、ツカサ。俺も愛してる♪』
顔が見えなくても声で分かる。大切な相手が今どんな顔をしているのか。でも、早くその顔を実際に見せてくれな。
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