●『クリスマスプレゼント包装中』
しゅっ、するするする、きゅっ。 灯萌の体の上を真紅のリボンが滑る。狐の部屋には今、狐が手繰るリボンの音と、灯萌が身じろぎする音と、2人の吐息だけが聞こえていた。
「これを……使って、奇襲をかけたいのですが……うまく、いかなくて……」 狐の部屋を訪れた灯萌は、そう言って無闇やたらと長いリボンの束を見せた。 「ああ、成程ね。じゃあ僕が手伝ってあげよう」 クリスマスにリボンに奇襲と来れば、なるほどなるほど、狐には灯萌の目的がすぐに分かった。 という訳で、彼女を脱がしてベッドに横たえて、今に至るという訳である。
「ところで……何故、脱いで……?」 リボンを巻き始めてしばらく。 何故か自分の服まで脱ぎだした狐の様子に、灯萌は首を傾げる。 「僕にも役得があって然るべきだろう?」 「役得……なりますか……?」 「十分に」 くすっと笑った狐は、リボンの端から手繰るようにして灯萌の体を抱きしめる。ゆったりと、やんわりとした仕草で……腕の中に収めて、少し、不快そうに眉を歪める。 「惣七君にこの肌を晒すのか。妬ましいね……そうだ」 いっそ、見せられないようにしてしまおうか。 そう小さく笑んだ狐は、灯萌の首筋に、鎖骨に、キスマークをつける振りをしながらキスを落とす。 「ふふ……狐先輩なら、いいですよ……?」 それは、戯れ。 だから灯萌もいつになく、わずかに笑みを浮かべて狐を見つめる。 戯れに。誘うような仕草を見せ付ける灯萌に、狐は笑う。 「酷い子だなぁ……」 「嫌い……に、なりました……?」 「まさか」 僕が、灯萌を? そんなはず無いだろう。ありえないよ……と囁きながら、狐は灯萌を抱きすくめる。 そうして掴んだのはリボンの端。そのまま手際よく灯萌の手首に絡み付けて、ふんわりと優しく、でも決して抜け出せないように結んだら、用意しておいた鋏で余分な部分を刻んでしまう。 「こっちも、やらないとね」 しゅるしゅるとシーツの上をリボンが這う。 「あ……」 指先が灯萌の腰を撫でる。じっと位置を調節するように至近でそれを眺めた狐は、そこへも再び唇を落とした。
――くすっ。 漏れた笑みは、どちらのものか。 ――くすくす。 それは、あくまでも、ただの戯れ。
――あなたが。君が。 それを望んでいるのなら、本当にそうしても構わないんだけどね……?
「さ、出来たよ。完成だ」 必要以上にたっぷりと時間をかけて、用意されたリボンを使い尽くして、灯萌の姿が完成する。 さあ、行っておいで。 そう狐の唇が囁いた。最後にもう一度だけ、灯萌の体に触れながら。
| |