●『これからも共に、ずっと二人で』
出会ってもう何年になるだろうか。 付き合い始めて、様々な事があった。 一緒に出掛けた事、周りの皆にからかわれた事、ずっと傍にいた時の事、少し離れていた時の事、目を閉じれば走馬灯のように思い出が駆け巡る。 左胸にブートニアをつけた静は、ゆっくりと目を開け自分の前にいる女性を見つめる。 薔薇の装飾の真っ白なドレスを纏った愛しい人。薄いレースのベールに覆われたヒナの顔は、少しだけ緊張しているようにも感じられる。 「大丈夫だよ」 静の言葉にヒナも微笑みで返す。 これから歩んでいく道がどんなに苦難の連続であろうとも、途中で離ればなれになるような事があっても……どんな事があっても、2人なら乗り越えられる。 視線を交わしたまま、そう胸の奥で誓いを起てる。 祝福の鐘も、賛美歌も聞こえてこない2人だけの誓いの式。それでもお互いに、自分の目に映っている人が大切な人であると、一番必要な人であると実感するには十分だった。 実感すればするほど、胸の中に熱いものが込み上げ、静は思わずヒナを抱き上げる。 「きゃっ!」 あまりの事に、夢中でヒナの細い腕は静を求める。 お互いを必要として、お互いに必要とされる幸せ。2人が目指す、2人で作る幸せの形。 「びっくりした?」 「だ、だって突然なんですもの」 そう言ってしがみつくヒナ。色白の肌理細かい頬が赤く染まっている。 「あまりにも綺麗だったからね」 抱き上げたまま静はヒナの顔を見つめる。 「ドレスがですか?」 「どうだろう?」 意地悪そうに言う静。 その真意は言葉にせずとも伝わるはず。ずっと長い時を過ごしてきた2人だから……ずっと乗り越えてきた2人だから。 (「愛してるから、一緒に生きよう」) 今はその言葉を心に唱える。 抱きしめた手に伝わる温もりと、柔らかな相手の香り。心地よさを感じる声。そのすべてが、自分にとって無くてはならない大切な存在。 だからこそ誓い合う。 これからも途切れる事のない幸せを二人で紡いでいこうと。
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