●『聖夜の晩餐会〜君と過ごす夜〜』
「ど、どう……でしょう?」 少し自信なさげな様子で立つ、あかりの様子に澪は頷き返した。 「……想像以上にいい」 おぉ、と小さくこぼしながらの言葉に、あかりは少しホッとしたように表情を崩した。 今のあかりは白を基調としたドレス姿で、髪もそれに合わせて結い上げている。そんな姿を褒められて、もちろん嬉しくないはずがない。 あかりを見つめる澪の表情は、決して笑顔ではなく、一見どこか不機嫌そうにすら感じられる。でも、あかりはそれが、澪にとっては普段通りの様子である事を知っているから、澪の言葉をそのまま率直に受け入れる事ができた。
今日はクリスマス。2人はそのまま、イルミネーションとクリスマスソングで賑やかに飾り立てられた街並みを歩く。 「……やっぱり今夜は人が多いな」 澪は思わず呟かずにはいられなかった。今宵を楽しもうとする人々で、街角は大いに賑わっている。気を抜いたら、あかりともはぐれてしまいそうなくらいだ。 ――と思った先から人の波が押し寄せて、はぐれてしまいそうになる。澪は混雑の中でも決して、あかりの姿を見失うことなく、反対に人の頭に埋もれてしまって、慌ててきょろきょろしている彼女に向けて大きく手を振る。 「あかり。こっちだ」 「あっ……」 それに気付いたあかりが、胸を撫で下ろした様子で追いかけてくる。 少し考え、澪は掌を差し出した。またこんな事があって、はぐれてしまっては、たまらない。 「……なぁ、あかり。名前で呼んでみてくれないか?」 「え? 澪、さん?」 それから呟いた澪に、小首を傾げつつ苗字ではなく名前で呼ぶ彼女の様子に、ん、と小さく頷いて、澪は再び歩き出した。
気をつけた甲斐があったのか、そのあとはもう、2人がはぐれてしまうような事はなかった。 いくつかの店を覗いた後、2人が向かったのは展望レストランだ。クリスマスの街並みを一望できる店内にはクリスマスツリーが飾られ、この日のためにと準備されたクリスマスディナーを楽しむことができる。 「すごい……綺麗ですね……」 「気に入ってくれたか?」 窓の景色を眺めて目を細めるあかり。澪の問いに、もちろんだとばかりに頷き返す。そこへ、オーダーしたドリンクが運ばれてきた。 グラスが置かれると、どちらからともなく、それを手にとって。 「……それじゃ、あかり。メリークリスマス」 「はい。メリークリスマス」 澄んだ高い音を響かせて、2人のグラスが鳴る。 これからも、よい関係でありますように……。そう願いながらの澪と、あかりの乾杯。そうしてドリンクを楽しみながら雑談を交わすうちに、料理が運ばれてくる。 きらきらと、光り輝く聖なる夜。2人はクリスマスのひとときを、共に楽しむのだった。
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