●『-Christmas dinner-』
「っと、後やっておくことは……」 今日は『姫乃木先輩』を招待しての食事会。 夏前に先輩と出かけた際の約束をやっと果たすことができると、悠埜ははりきっていた。 料理はすでに、腕によりをかけて準備した。 部屋の掃除も……普段からマメにやっているのでおそらく大丈夫だろう。 (「見られてやばめなものは寝室持ってったし……」) 問題は無いだろう。 「っと、来たかな」 何度目かの再確認を終えた悠埜の耳に、チャイムが聞こえてくる。 「ようこそ。寒かっただろうし、中へどうぞ」 「お邪魔しますよ」 (「なんか随分いい所に住んでますね」) 月姫はそんなことを思いながら、悠埜の後について扉を開ける。 招き入れられた後輩の部屋を、観察者の目で見回してみる。 (「過剰に掃除されている気がしますが、やっぱこれってアヤシイ物は部屋に隠したのでしょうか」) 「思春期って大変ですねー」 「…………そうそう、約束通り――」 意味深に呟いた月姫の言葉に一瞬動きが止まった悠埜だったが、どうやら『聞こえなかった』ことにするらしい。 「――腕によりをかけて、メインとなるものからケーキから先輩のために作ったんで……たくさんどうぞ」 「おー、沢山作ってくれたんですね、遠慮なく頂きますっ!」 わざわざ突っ込んでイジメることをせず、後輩の話題転換に乗ってあげる月姫。 ……いや。単に、完全に興味の対象が、一面に並べられた豪華な手料理に移ってしまっただけかもしれない。 「味どう? 口に合ってるといいんだけど」 自分も料理をつまみながら尋ねる悠埜だが、月姫からの返事はない。 といっても、一心不乱に手と口を動かしているのを見れば、その心配は無用のものだろう。 「うん、美味しいですよ。常套句で申し訳ないんですが」 「……ん、ならよかった」 見事な食べっぷりと嬉しそうな笑顔に、悠埜の表情も自然にほころぶ。 「さて、食べ終えたところで……プレゼントです。どうぞ」 あれだけあった料理がすっかりなくなり――その大半は『姫乃木先輩』のお腹の中に消えた――満足げに伸びをしている月姫に、悠埜は今日のために用意した贈り物を手渡す。 「やー、嬉しいですねー。それでは、私からもプレゼントです」 そう言って、少女が差し出したのは。 「はい、鍋掴み」 (「我ながらある意味ベストなプレゼントですよね〜」) などと考えてたりするのだろうか。 悪戯っぽい笑みを浮かべている月姫だが、悠埜の感情は複雑だった。 プレゼントを貰えたのは素直に嬉しい。 品も実用品で役に立つもの。なのだが、なのだが――。 そんな悠埜の様子を見て、ますます楽しそうにする月姫。 どうやら二人の力関係は、まだまだ変わりそうにないのだった。
| |