●『甘えんぼと甘えられんぼ』
さむいさむいクリスマスの日。けれどパーティー会場の中はほんのり暖かい。レナータと梨音も、そんな会場の片隅でひっそりと寄り添っていた。 「……」 少し小さめのベンチは、二人で座るので精一杯。 だから白いドレスを着たレナータは、ただ黙って梨音にくっついていた。そう、椅子が狭いからなんて理由をつけて。そうしてレナータは梨音の腕を抱えるようにして、すりすりと頬ずりをして幸せそうにしている。 サンタクロースみたいな格好をした梨音は何も言わずに、ただ黙って慈しむようにレナータを見つめていた。そしてそっと、梨音の頭を撫でる。 二人が今いるこの場所は、まるで二人だけの空間であるかのように穏やかだった。
そうして過ごすうち、ふいに二人は物思いにふけっていた。二人の出会いから、今までの事を振り返りながら、共に過ごす。 出会ったのは半年前、臨海学校の時だった。 あれが初対面で……こうやってまともに梨音の近くにきて甘えられるようになってからは、まだ二ヶ月くらいしかたっていない。 でも、それなのに。 「不思議なの。ずっと前から一緒にいたような気がしてる」 「そうだね。私も、そんな気がする」 ぽつりと、レナータの唇から言葉がこぼれる。 本当に、ずっとずっと生まれた時から、いやもっと前から一緒にいた姉と妹のように思えてきてしょうがないのだ。梨音もそっとレナータの手に自分の手を重ねて、そして頷いて返した。 「リオンー」 「うん?」 レナータに呼ばれて、『姉』……梨音が小首を傾げた。普段感情を表に出さないレナータが、真剣な顔で、梨音の瞳をじっと見つめていた。 「大好き」 「ん、私も」 梨音も、ゆったりと微笑む。たったこれだけのやり取りでも、すごく幸せ。でも。 (「あれ、私子供扱いされてる?」) レナータには、少しお気に召さなかった。 でも、まあ、いいか。 こんな日だから、気持ちも緩んでいたのかもしれない。自分の気持ちを連呼する。 「すき。スキ。大好き……ほっぺにkiss、していい?」 そして……もっとシンプルな方法を思いついて梨音に提案する。梨音のほうはといえば、優しく見守っていた『妹』からの突然の提案に、一瞬だけ動きを止めた。 「うん、や、ほっぺくらいなら別に……良い、け、ど!」 「いいの、いいの? ほんとに、いいのね?」 ほんのちょっとおねだり目線、けれどかなり強引に。レナータのほうに抵抗はない。直接……してもいいくらいだ。けど、梨音に嫌われるのはイヤだったから、ちゃんと確認をとって。 「ん……」 ちゅっ。 「いつまでも側にいてね」 「うん」 二人の語らいは続く。いつまでも、ずっと。 「ずーっと、ずーっとね」 「ずっと、一緒だよ」 もう一度、二人の影が重なる。二人の時間はまだ続く。もっともっと、続いていく。
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