頸城・和泉 & 氷見・千里

●『いつでも一緒』

 クリスマスは大切なひとと過ごすのがいい。
 そう思うひとは多いから、この時期は何処も予約でいっぱいだけれど、そんなとき温泉旅館のペア宿泊券がたまたま手に入ったのは運が良かった。
 そう遠い場所でもないし、クリスマスイヴの夜を二人でお泊りなんて素敵な話ではないか。
 連れ立って指定の温泉旅館に出掛けた和泉と千里は、部屋に落ち着くとまずは大浴場でそれぞれ旅と日頃の疲れとを癒した。
 旅館に用意された、帯と染め抜かれた模様が男女で色違いの浴衣を着て散策すれば、紅葉した楓や白樺の寄せ株が情緒ある庭も二人を歓迎しているかのよう。
 やがて部屋に並べられた温泉旅館ならではの美味しい料理をお腹いっぱい食べて一息つく、そんなひとときはとても緩やかに過ぎていった。
 寝る前にもう一度温泉を堪能しようと提案したのはどちらだったか。
「さっきは別々だったから……」
 千里は言う。今度は一緒に入りたいと。
 二人はまだ幼かったが、互いを恋人と認め合っているから、純粋に好きなひとと常に一緒にいたいと欲するもの。
 柔らかな湯の花が浮かぶ温泉で、身も心も温まるなら和泉と一緒がいい。
「い、一緒に……?」
 どれだけ大胆なことを言っているかに気付かぬ少女に、恋人から請われた内容に慌てた少年も根負けする形で貸し切りの家族風呂をお願いすることにした。
 浴衣を脱ぎ、のんびり湯船に浸かると、温もりがじんわりと身体に染み渡っていく。
 互いに一糸まとわぬ姿でいるからか、和泉の心臓も千里のそれも、早鐘のようにどきどきと高鳴って。
 二人一緒のお風呂は初めてではないが、旅先の温泉宿で過ごす時間は、日常から少し離れていて気持ちが新鮮さに高まるから。
 少しずつ馴染んできたのか、和泉の胸に寄りよかる千里。
 そうされれば、優しく抱き寄せるのに何のためらいも無い。
 頭を撫でられ気持ちよさそうな千里に、背中を流し合おうかと持ちかけてみる。
「千里の背中、白くて綺麗だね」
 同意した千里の背中を流してやりながら囁けば、彼女は耳まで真っ赤。
「私も和泉を洗う」
 対抗意識か、自分だけされているのではなく恋人に何かしてあげたいと思ったか、千里は手ぬぐいで石鹸を泡立てると、丹念に和泉の背中を流し、腕、胸元……と夢中でごしごし洗っていくものだから、さすがに今度赤くなるのは和泉の番だ。
 和泉は、お返しとばかりに千里の身体も隅々まで洗ってやった。柔らかい彼女の身体を、大事そうに、愛おしそうに。
 再び寄り添って湯船に浸かる、その距離はさっきよりも近く。
 そうして十分に温まってから部屋に戻れば、ひんやりした布団も気にならないくらい。
 手を繋いだまま並べた布団にそれぞれ入ったけれど、たったそれだけ離れているのももどかしく、二人は引き寄せられるように一つ布団に寄り添い抱き合った。
 和泉は千里の、千里は和泉の温もりを感じたまま、どちらからともなく呟く。
 おやすみなさい。



イラストレーター名:さいばし