土御門・泰花 & 知富・迅

●『Everlasting love』

 気が付いたら――もうすっかり夜だった。
 ざわめく街並み。煌びやかなイルミネーション。特別で大切な一日。クリスマスのその日。
 迅にとっても奏花にとっても、今日は特別だった。アスリートとしての活動がある迅に、卒業を間近に控えた奏花。二人とも忙しい日が続き、予定を合わせるのが難しかった。それでも何とかクリスマスは一緒にと願い、ようやく迎えられた二人一緒のクリスマス。
 待ち遠しかった分、時間は楽しく、そしてあっという間に過ぎる。
 互いにプレゼントを渡し、沢山語り合い……気が付いたら夜空に月が輝いていて。
 気が付いたら、街が白く染まっていた。
 二人同時に空を見上げて、暗さと寒さを思い出す。少し寂しさもあるけれど、十分楽しんだ。二人はどちらからともなく帰路につく。家に戻るまでの時間さえ惜しむようにゆっくりと足を進め、離れずに済むように肩を並べて雪道を踏む。
 二人の時間が続く中、不意に迅が足を止める。視線の先には輝くクリスマスツリー。夜の中に在って、雪が舞い降りる世界に在って、その樹は星々のように明るく広がっていた。
 近くに行こう、そう言った迅に奏花は同意する。二人とも同じことを想っていた。近くで見たい――それ以外に、もっと長く一緒に居たいと。
 側で見るツリーの光は、一段と奇麗であった。思わず見入ってしまう。心全てを照らすような輝き。
 雪が舞う中で一層華やかに映るツリー。そのツリーを静かに、無心で見つめる奏花。
 迅はそんな奏花を見て――思わず背後から抱きしめる。
 突然の行動に驚き、そして不思議そうに顔を迅に向ける奏花。
 迅は、不思議そうな顔で自分を見つめる奏花を見て、自分自身の行動に合点がいった。どうして抱きしめてしまったのか、どうして思わず動いてしまったのか。全て思い至り、納得した迅。
 だから、思い切って、その理由を口にする。

「泰花……これからも、ずっと傍にいてくれないか?」

 君に逢いたくて。君の傍に居たくて。君と離れたくなくて。
 だから、今日逢いたかった。だから、今日君の傍に居た。だから今、君を抱きしめた。
 言葉に込められた迅の想い。間近で聴いた奏花は驚いて――けれど直ぐに笑顔を浮かべる。恥ずかしさと嬉しさの両方が込められた微笑。紅潮した頬は、奏花の心情を明確に現す。言葉を紡ぐまでも無かった。奏花だって同じ想いで、今日を迎えていたのだから。
 小さく、二人にしか届かない言葉が交わされる。何を言ったのか、どんな愛を囁いたのか――それを知るのは二人だけ。
 顔と顔が近付く。唇と唇が近付いて……触れる。静かに、長く、深く深く交わされる口付け。
 二人の時間はまだ続く。今日のこの日が終わっても続く……そう誓った、二人の抱擁。
 雪降る歌が響く。音無く街に響き渡る。冬の精が世界を白く染めて、恋人達を包んでいく。
 そして二人の心も同じく、聖夜に広がる暖かな雪達に包み込まれていった――。



イラストレーター名:金子卓生