●『Lonely Noisy Christmas』
12月のストリートには、寒風が吹き込んでいた。鮮やかに彩られた街のイルミネーションは煌々と輝き、見る者の心を和ませる。そんな最中、伊吹はアコースティックギターを、燈火はマイクを持って街頭に立っていた。これから行う、ストリートライブのために。 (「……どうしてこうなったんだっけ?」) 凍えるような寒さの中で、かじかむ手をこすり合わせ、伊吹は思考を巡らせる。確か、目の前で楽しそうに準備をしている義姉、燈火に頼まれたのがきっかけだったはず。 「病院のクリスマス会でライブをしたいのよ」 ああそう、そんな感じだったと思い出す。確かそれが二ヶ月前だ。正直、伊吹はギターに自信は無かったし、その時断っていればこんな事にはならなかっただろう。しかし、燈火の押しに負けて引き受けてしまった。昔から頼まれると弱いのだ。 それからはもう、ひたすら練習の日々。 「オリジナル曲をやりたいのよ」 しかもこんな要望まで飛び出した。正直、伊吹にとっては無茶な要望だと思った。しかし、二人で額を突き合わせ、なんとか形らしい形に仕上げる事に成功した。 そして本番の今日。日中のクリスマス会は、上手くいった。大成功といってもいい……と思う。それくらい、気分が高揚していた。 そのまま打ち上げと称して食事へ向かい、楽しかったと感想を言い合っていたのが数時間前の事。またオリジナル曲をやってみたい、と言いながらカラオケに行ったのがほんの少し前。何故かアイデアが浮かんで、曲が出来てしまって、何処かで演奏してみたいと言っていたのがついさっき。 「じゃあ、ストリートでやろう」 そんなふうに燈火に誘われて、今に至る。全く、勢いというのは恐ろしい。当然の事ながら、二人ともストリートライブなど今までやった事はない。伊吹は正直、かなり緊張していた。横目で様子を伺ってみると、燈火は全く物怖じした様子はない。肝が据わっている。 「何してるの。やるわよ?」 気が付けば、燈火が伊吹を見ていた。ここまで来たんだ、やるしかない。しかし、伊吹も演奏を始めた途端、緊張などどこ吹く風、そんな事どうでも良くなった。きっと、二人共音楽の魅力に取りつかれているのだろう。そして……。 「勢いだけだった割には、上手くいったわね」 「うん。じゃ、義姉さんはこっち」 「ありがと」 結局、終わってみれば割合盛況だったような気がする。燈火の言う通り、突発だったわりには人も来ていたようだ。伊吹は頷き、買ってきた暖かい飲み物を渡した。 (「いい加減、彼氏でも作れよ」) 一息つきながら、心の中で伊吹は呟く。しかし、義姉の返しが怖いので、考えた事は黙っておいた。義姉が見透かしたようにこっちを見たので、慌てて視線を逸らしたが。 深々と雪が降る。指先の冷たさが、コーヒーの熱でじぃんと溶けていく。またやってもいいかな。なんとなく、そう思わせるような余韻が残った。
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