比奈守・双臥 & ミンク・アルフェール

●『ツリーの下で』

 今日はせっかくの折角のクリスマスだから、ということで、久し振りに二人で出掛ける事にした。外でデートというのはあまりしたことがない。だから二人とも、いつも以上にドキドキして、ほんの少しだけいつもより気持ちが昂ぶる。
 イルミネーションや店の明かりに照らされて街の中を散歩する。仲良く手を繋ぎ歩いて行く先は特に決めていない。二人一緒にいるだけで、なにはなくても楽しいから。様々な店の明かりや、イルミネーションに目を奪われながら、他愛もない話を交わす。普段なら家の中で話をするから回りなんて気にしない。けれど、今日は少しだけ雰囲気が違う。だって、周りにも仲良く寄り添っている人々がちらりちらりと見えるから。
「……あ」
 歩いていると不意に見えてきたのは大きなクリスマスツリー。降り積もる雪の化粧であちらこちらに白く彩りを添えている。双臥はつい、小さな感嘆の吐息を漏らす。
「綺麗……」
「クリスマスツリーだな。随分大きいが……」
 周りのイルミネーションとは比べものにならないくらい、クリスマスツリーは綺麗な光を放つ。それが、雪と反射して輝いている。隣を歩くミンクと共にツリーを見るために近付いていく。二人で見上げたそれは、また格別に鮮やかな記憶として焼きついていく。並んで光を眺めていると、気づけば二人の手は重なり、お互いの温もりが手袋を通して伝わっていく。ふと、双臥は一つ、名案が思い浮かんだ。
「ミンク……キス、しないか」
「……え? ここ、で?」
 普段の双臥なら、恥ずかしくて絶対に言わない、言えない台詞。ミンクも、周囲を見回して戸惑う。流れ行く人波、あちこちで語らう人々、そして、明るく薄暗く照らし出すイルミネーション。ここは少し、明るすぎる。でも、このツリーを見上げていると、恥ずかしさすらどうでもいいものに思えてくるのが不思議だ。目の前にただ立ち尽くしているもみの木には、それを言わせるだけの雰囲気と魅力があった。
「……いいよ」
 僅かに震えるミンクの返事。寒さなのか、それとも緊張なのか。その言葉をきっかけにして、ミンクは一歩、また一歩と双臥との距離を縮めていく。そんな伴侶の顔を見つめながら、双臥はそっと目を閉じる。二人の影が、音も立てずに交差する。重なる唇に暖かな温度を感じながら、双臥はミンクに抱き付く。
(「ツリーを見る度に、この日の思い出を思い出せますように」)
 揃って同じ願いを込めながら。二人は静かに、聖夜のひと時を思い出として刻み付けていく。鮮やかに彩られたもみの木は、ただ黙って二人を見下ろしていた。



イラストレーター名:朝奈