●『静かに流れる時間』
しんしんと、窓の外で静かに雪が降り積もるクリスマスイブの夜。 神武斗と華那は抱き合って、1つ同じベッドの中にいた。 寄り添うお互いの体から伝わってくる、心地よい、ぬくもり。 神武斗の腕の中で、華那はゆるゆるとした動作で閉じていた瞳を上げた。それすらも、億劫だとでも言わんばかりに、華那は小さな吐息と共に呟く。 「……なんだか疲れました」 そんな様子に神武斗は愛しげな笑みを浮かべ、華那を抱きしめる腕に少しだけ、ほんの少しだけ力を込める。 「……ちょっと頑張りすぎたかな……」 ゆっくりと動かした右手で、やんわりと、彼女の綺麗な髪を撫でながら呟く神武斗。それは普段なら独り言に過ぎず、華那の耳には届かないまま消えて行っただろう。 だが、今は違う。 静寂の中、互いの吐息や心臓の音まで聞こえそうなほどの至近距離。こぼれた囁きは華那の耳へ確かに届き、彼女はうっすら笑って「いいえ」と首を振った。 「大丈夫ですよ。だって……」 しあわせだから。 こぼれた囁きは同じように神武斗の耳へ届き、何にも変えがたいほどに大切な彼女を決して離したくないと、そう仕草であらわすかのように、より深く抱きしめて華那の髪に自分をうずめる。 軽く伏せた瞳の向こうに、きらきら輝く柔らかい光。 部屋の明かりをすべて落とした後、2人でつけて回ったキャンドルの暖かい光。それから、小さなクリスマスツリーを彩る、ささやかな電飾。 それらが、2人を見守るかのように優しく明滅する。 「こうやって見ると、さっきよりも綺麗に感じるな」 「ああ……そうですね……」 もぞもぞと寝返りを打って、振り返った華那もまた瞳を細める。2人を包むように揺れる光は、心地よい疲労と、眠気に襲われている体には、殊更に綺麗で心地よく感じられて……。 「メリークリスマス、ですよ……」 ゆるゆると瞼が落ちて行くのを感じながらも、そう華那は神武斗の名を呼ぶ。 やがて、その吐息がすっと、眠りに落ちて行くそれに変わる。 「……メリークリスマス、華那」 大切な大切な愛しい人が、今夜もよく眠れますように。 神武斗はそう囁きかけながら、彼女の肩までしっかりと布団がかかるように直すと、腕の中の大切なぬくもりを感じながら自らもまた目を閉じた。
――メリー、クリスマス。 2人の聖なる夜を、静寂の中、暖かい光達がいつまでも見守っていた。
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