●『赤城零はクリスマスに重傷を負いました』
それは、クリスマスの少し前、零の一言から始まった。 「あの、今年のクリスマスはその、温泉旅行とかに行きませんか……」 その申し出に、牡丹はきょとんとした目をむける。 こっちを見つめる漆黒の瞳に、零の頬がぱっと赤くなった。 「あの決して下心とかではなくてですね、俺も銀誓館卒業してから働いて少しずつ貯金もたまってきたわけですしそのですね記念日に少しくらい贅沢してもいいんじゃないかって言う……!!!!」 なんだか緊張のせいで早口になっている零に、牡丹はにっこりと微笑んだ。 「お姉さんもお金は溜まってるから、それなりの所へは行けるわね」 そして、小声でぽつりとつけ足す。 「……。むしろ、下心がないと言われた事のほうが、色々と心配だわ」 二人が付き合い始めたのは、三年前のクリスマス。もう結構な時間を一緒に過ごしているし、同棲だってしているのに、純情すぎる零のおかげで、まだキスまでしか進展がない。 でも、やっとその気になってくれたのかしら? なんて、甘い期待に牡丹は胸をときめかせた。
というわけでクリスマス当日。二人が選んだのは、客室に露天風呂がついている少し豪華な旅館だった。 冬のキレイな星空のもと、零はゆったりと温泉につかっていた。お湯で熱くなった顔に、冷たい夜風が気持ちいい。 ふと、零は湯気でくもったガラス戸に人影が立っているのに気がついた。 「まさか?!」 「背中流してあげるわね、零ちゃん」 いたずらっぽい笑みを浮かべて入って来たのは、当然だけれど、牡丹。 真っ白い牡丹の体が、真っ白い湯気の隙間から浮かび上がった。 「ちょ、牡丹さ……」 零はぶしっと盛大に鼻血を吹いた。そのままドッボンとド派手な水しぶきを立てて、湯の中に倒れこむ。じわあ、と水面がなにやら赤く染まり始めた。
重傷者:赤城・零(黒マフラーの蟲使い・b03620)
「零ちゃん?!」 溺れちゃったら大変、と牡丹が慌てて駆け寄った。
額に濡らしたタオルを乗せて、零は畳の上に横たわっていた。 浴衣に着がえた牡丹は、ぬるくなったタオルをオケの水で冷やしてしぼると、また零の額に乗せる。 「あ〜あ、また失敗しちゃったわね」 (「でも、来年のクリスマスまでにはきっと……」) とりあえず、真っ赤になった温泉をなんとかしないと。今年のクリスマスは、これから忙しくなりそうだった。
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