チョコ・プリス & 遊夢・レン

●『来年もね?』

 誰もいない教室。
 今、その中にはクリスマスケーキを食べて笑顔を綻ばせるチョコと、それを優しげに見つめるレンだけしかいない。
「美味しいのにゃぁ〜♪ もうにゃ、このケーキとっても美味しいのにゃぁ〜♪」
 チョコは、白いクリームを口の周りにつけてもお構いなし。
 心の底から「美味しい」を連呼して、またフォークで一欠片のケーキを掬ってはぱくり。レンがちらりと窓に視線を向ける。
 聖なる夜、クリスマス・イヴ。
 夜もふけて真っ暗になった窓の外では、学園のクリスマスのイルミネーションがまるで大海に浮かぶ星空のように煌めく。
 二人の姿がそんな夜景を映し出す窓ガラスの向こう側で、幻燈のように浮かび上がってはいるが。
(「……ま、ロマンティックな夜景も、チェコの前では形無しだよな」)
 と苦笑するレン。
 チョコはといえば夜景などには目もくれず、尻尾を千切れんばかり振りながら彼が用意したクリスマスケーキに夢中で、一心不乱に一口、また一口と頬張りながら楽しそうにその味を堪能しているご様子。
 あまりに幸せそうに見えたので……レンは、いたずらがしたくなった。
(「じー……」)
 狙うはチョコの口の回りについたクリーム。
 慎重にタイミングを見計らって。
 せーの。
「ぺろっ」
 素早くチョコのクリームがついた口のすぐそばを舐め取る。
 キョトンとした顔で見返しているチョコに、レンは「へっへー」としてやったりな得意顔。
 数瞬の後、チョコは花咲くように満面の笑みで、
「ちゅっ」
 と、キスでお返しした。
 ……。
 …………。
 イッタイ、ナニガ?
 レンはやわらかい感触に滝の汗を流して目は混乱でぐるぐるぐる。
 すっと唇が離れる。
「にゃは♪ クリーム味にゃん」
 そこでハッと正気に戻る。
 唇の感触がよみがえり、逆に照れ臭くなって顔を背けた。
 赤面したままどう反応すればいいのか、とにかく、この場を取り繕う。
「……クリームの甘さは、問題ねぇな」
「うん。ないにゃ」
 チョコは無邪気に笑った。
「来年も一緒にいれたらいいにゃね?」
 と。
 レンは表情を和らげる。
「来年だけじゃねぇよ。これからもだ」
 レンには、そう、見えるのだ。
 これからも、まったく予想できない気まぐれな彼女と過ごすことで……胸の踊る日々が続く、と。



イラストレーター名:七輪 九十